現場で実作

 写生及び写実俳句は、実際に対象を眺めて俳句にする場合が多い。その方が現実感が表現されるであろう。直接見るという行為は、決して無視してはいけないのである。
 だが、中には写真を見ながら俳句を作る人もいるのである。私も以前一回だけ写真を見ながら句を作ったことがある。たしか秋の浜の見える道路に犬が歩いており、近くに自動販売機が写っている写真だったように思う。それを見て、
「秋の浜自販機立ちて唸りをり」という風な句を作った記憶がある。実際に自販機が微かな音を立てていることは写真からは判断できないが、昔の自販機はモーターの微かな音がしていたように思う。今でも静かな場所であると聞こえるかも知れない。
写真だけでなく、自販機に関する知識も活用して作成したものである。この句がいいかどうかは兎も角として、写真だけではやはり良い句は作れないであろう。写真及び想像力及び過去の知識が必要である。写真は写真である。写真家の意図から飛び出すことはできないであろう。自由に詠むならやはり直接その場に行って、その場の空気を吸い、その場の光や影、風の向きや強さ、音頭、物の色、形、配置、雰囲気などを直接全身で味わうことにより、より良い俳句が詠めるのであろう。実態から発せられる想像力は感動を生むであろう。前衛俳人も写生という観点を尊重して比喩る方が心に響く作品が構成できるように思うのである。

                                 2007.10.7