切れ字の強さ
代表的な切れ字として、「や」「けり」「かな」が上げられる。この三つの切れ字において強さの程度はどのようなものなのであろう。三つとも同じということはないであろう。それを探ってみたい。
まず、「や」と「けり」を比べてみたい。この二つを使用した名句に中村草田男の次の作品が上げられる。
降る雪や明治は遠くなりにけり
さて、この句の意味を考えてみよう。「雪がしんしんと降っているなあ。その雪を見ていると明治という時代は遠くに感じられるようになったものだ。」ということである。夜の雰囲気が感じられる。作者はふる雪の彼方に明治という時代のまぼろしを見ているのである。
では、朗誦してみよう。どうであろうか。まず「や」で強く切れているように感じられるであろう。そして、最後に「や」ほどではないが、「けり」でまた響いている感じがするであろう。強さは「や」の方が勝っている。声に出して何度も詠むとその実感が理解できるであろう。
次に「けり」と「かな」を比べてみよう。この二つは下五に使用されることが多く、特に「かな」はほとんど下五である。「けり」は元々過去の助動詞であった。それが詠嘆にも使用されるようになったのである。「かな」は最初から詠嘆であった。よってその過程から考えて「かな」の方が強いと考える。しかし、実感として大きな差はないであろう。
それから「や」と「かな」を比べてみよう。しかし、この二つの切れ字を含んだ名句はないのである。無理に作ろうと思えばできるが、禁じ手に近いものがある。「や」と「けり」の関係よりも「や」と「かな」は相性が悪いのである。「かな」は全体に響く切れ字であり、途中で「や」で切られてしまうと全体に「かな」が響かないのである。
さて「や」と「けり」に差があり、「けり」と「かな」に差が少ないということは、「や」と「かな」では「や」の方が切れ字としては強いということである。やや数学的比較になってしまったが、実感としてもそうであると考える。
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