明治の句
降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
何度も書いているが、この句は私の最も好きな句の一つである。しかし、この句には、それに先立って、
獺祭忌明治は遠くなりにけり 素人俳人・某氏
という句があったのである。獺祭忌とは子規忌のことである。草田男はその句を俳句誌で見ることができたらしく、盗作もしくは剽窃ではないかと疑われたのである。いろいろな議論がなされたが、結局盗作でも剽窃でもなく、草田男の創作ということでほぼ決着したようである。
だが、どうなのであろう。「降る雪や」の句が某氏の作であり、「獺祭忌」の句が草田男の作であったらどうであろう。句は明らかに「降る雪や」の方が優れている。しかし、である。「降る雪や」が名句であったとしても、全く無名の俳人が作ったならば、俳壇史には決して残らなかったであろう。全く消えていたであろう。「獺祭忌明治は遠くなりにけり」の句は、草田男が作ったというだけで残ったであろう。降る雪ほどではないにしても、獺祭忌の句は、それなりに佳句である。
俳人の名前は効力を発揮するものである。弟子が作った佳句でも偉い師匠が作った句として発表されたら、有名になるであろう。名前が句を残すということがあると思うのである。特に虚子の句は、虚子という名前だけで残っている迷句もあるのではないかと思うのである。名前だけで句が残るということは凄いことであり、俳壇史に残る俳人なのであろう。
2007.8.25