人間性を示す句
                                    

 長谷川櫂主宰の第一句集「古志」に異様な句がある。名句とはなり得ないかもしれない。古志同人も気にはなっているが、多くは無視している句である。

   無思想の肉が水着をはみ出せる    櫂主宰

 私はこの句が大好きである。なぜなら、明確なる批評があり、主宰の本質的人間性がにじみ出ているように思えるからである。私もこのような句を作ることがある。しかし主宰には没にされている。この句を主宰は何故載せたのであろう。第三者から見れば無難に外しておいた方がよいと感じられるであろう。一部の女性からは嫌われるであろう。
 だが櫂主宰は載せたのである。主宰は肉体だけの女性は嫌いであると述べているのである。女の色気にはだまされないぞと述べているのである。主宰は女性の容姿に左右されない人間である。綺麗な女性を見てもでれでれしないのである。甘く批評しないのである。私もかくありたいと思っている。しかし私は綺麗な女性を見るとつい嬉しくなるのである。そして無意識の内に甘くなっているのである。実に情けないと思うのである。客観という言葉はとても好きであるが、綺麗な女性はもっと好きなようなのである。愚かだなと思う。
 さて、女は男をだめにするという一面の真理がある。主宰はスポーツマンであり、魅力的な男性であり、東大法学部卒という輝ける学歴もある。主宰にいいよる女性もいたであろう。だが禁欲的に無視してきたのではあるまいか。強い理性がそこにあったろうと感じられるのである。
 今まで何度か主宰に従い吟行したり句会に出たりしたことがあったが、主宰は一見穏やかな人格である。人前で怒るということはない。一人一人に丁寧に接している。しかしである。決して穏やかな人格ではないように思えるのである。そう感じるのはこの句があるからである。この句には怒りが感じられる。それも強い怒りである。そのような強い怒りが独りになった時、爆発することがあるように思えるのである。また、その爆発的性格は短詩にとってとても重要な要素である。爆発的に句を詠む姿勢。それは時に名句を生むのである。穏やかな性格は散文家には向いても短詩詩人には向かないのである。名句を生むには気力の爆発が重要である。主宰はそれを持っているのである。
 

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