色彩の名句

 俳句には写実や心象などいろいろなタイプの句がある。その中で、特に色彩の鮮明な句がある。写生句に多いように思うが、いくつか上げてみたい。

(1) 赤い椿白い椿と落ちにけり       河東碧梧桐

(2) 万緑の中や吾子の歯生えそむる   中村草田男

(3) つきぬけて天上の紺曼珠沙華     山口誓子

(4) 青蛙おのれもペンキ塗りたてか    芥川龍之介

 (1)の椿の句は、「赤と白」の鮮明なる対比である。(2)の万緑は、緑と歯の白の対比である。(3)は、青空と花の色の対比である。色彩句の名句には色の対比を示した句が多いように思う。その対比の色は同色系統ではなく、補色対比の関係にあるものがより鮮明である。ここでいう補色対比とは、補色の関係にある色同士が補色残像現象のために、お互いに、より鮮やかさが強調されたかに見えることである。すべてが補色対比とはなっていないが、色彩の句を理解する上で知っていてもよいであろう。
 さて、(4)の句であるが、青蛙の色だけである。この句はペンキ塗り立てというユーモアがその色を鮮明にしているのである。色彩の句は対比だけではないのである。
結論として、補色対比の情景をうまく詠めば秀句ができるかも知れないということである。

                                                 2009.5.4