速さを表現する俳句

 俳句は瞬間を捉えて表現する場合が多いが、速度を意識して作られた俳句は少ない。少ない、というよりも意識して作る俳人はいたであろうか。いないように思える。作る価値はあろう。
 だが、短い俳句で速度を的確に表現できるのであろうか。表現するだけでなく、俳句としての価値も大切である。まずは、その速度を表現した俳句を作ってみよう。

ゴキブリや激しく走り足八本     孝治
翡翠や魚捕まへ元の枝       孝治

 ゴキブリの句の意味が分かるであろうか。こん虫の足はもちろん6本である。8本である筈がないのである。激しく動くと8本ほどに見えるようだということである。うーん、少しマンガチックである。恐らく失敗作であろう。実験には失敗はつきものなのである。笑われても無視するのである。
 さて、翡翠の句はどうであろうか。翡翠は枝の上でじっと川の中の小魚を見ているのであるが、一瞬の隙を見て、小魚に飛びかかり、捕まえ、元の枝に戻るのである。その時間はほんの二三秒である。その速度が感じられるであろうか。感じられれば成功ということである。
 兎に角、私は、速度を感じさせる句という存在が認識できたのである。それはそれで意味のあることである。もっとたくさん作ればいいのであるが、次の機会にするのである。

                                    2007.9.16