大景俳句

 大きな景色を小さな俳句におさめる達人がいる。それは芭蕉である。いくつか提示しよう。

  閑さや岩にしみ入蝉の声            (山形、立石寺にて)
  五月雨をあつめて早し最上川         (最上川、大石田にて)
  暑き日を海にいれたり最上川         (最上川、酒田にて)
  荒海や佐渡によこたふ天河          (越後、出雲崎にて)

 頭に浮かんだ句をそれぞれ上げてみたのであるが、みんな「奥の細道」の名句である。大きな景色はやはり旅で詠むものであることが実感できるであろう。さて、最初は広く大景俳句を取り上げる予定であったが、芭蕉の作品だけでもよいと理解した。
 芭蕉の句の中で、最もスケールの大きい俳句は「荒海や佐渡によこたふ天河」である。宇宙空間に横たわる天の川は果てしなく広いのである。「俳句の宇宙」という発想は、恐らくこの句から得られたように感じるのである。
 「大きいものを小さなものに収める」という行為はとても素晴らしいことである。 俳句の価値は正しくここにあるのである。大きな宇宙も五七五の中に収まるのである。大きな感動が収まるのである。俳句は何と素晴らしい器ではなかろうか。何でも入る魔法の器である。俳句の価値を再認識した次第である。

                                    2008.4.19