きつねの嫁入り


むかし、あったてんがな。
あるところにばさとひとりもんのあんにゃが二人で住んでおってな。
あんにゃが山菜とりをしていると、わなにかかった小ぎつねがおったと。
近くには親ぎつねがウロチョロしておってな。男はかわいそうになって小ぎつねを助けてやったと。
ほうしてある晩、あんにゃの家に手紙が戸口におかれてあってな。
次の新月の夜、きつねの嫁入りがあり、それに招待するすけ、村はずれの一本すぎのところへ来てほしいと書いてあったと。
「きつねにだまされるっけ、行かん方がええよ。」
とばさはいったんども、あんにゃは、
「いっけ(一度)でいいから、嫁入りが見てっけ(見たいから)行ってくるんが。」
ほうして、次の新月の夜、一本すぎのところに行ったんと。
ほうしると、ぼおっとした明かりがゆらゆらといくつもあんにゃの方にやってきたんと。
「これがきつね火なんかいの。」
と思うているうちに、男の前に先頭がついたと。みんな黒い着物をきて、ちょうちんをもっておったと。お嫁さんがの乗っていると思えるかごが一つ真ん中あたりにあったと。
みんなきつね顔のようだったけれど、人間のようにも見えたそうな。列の中から、一匹のきつねがあんにゃの前にやってきて、
「先日は、息子を助けてくださって、ありがとうございました。お礼にわたしたちの嫁入りにご招待いたします。人間をご招待するのは初めてなんですよ。」
と、ばかていねいにあんにゃに言ったと。
「今日の嫁入りは、わたしのしんせきの娘がとなり村に嫁入りすることになりまして、これから出かけます。でも、人間がおりますと相手方がおどろきますんで、このきつねのお面をかぶってください。」
ほうして、あんにゃは、お面をかぶり、列の一番後ろについていったんと。
山をひとつ越えたところに今まで見たこともないお宮さんがあってな。そこに行列はついたと。すでに、おむこさんたちが待っておってな。このお宮でしゅうげん(結婚式)をあげることになっておったそうな。
かごの中から、鼻すじの通ったいとしげなお嫁さんが現れ、お宮さんの中におむこさんと一しょに入っていったと。そこでしゅうげんが始まり、
あんにゃは後ろの方で見ていたんやが、人間の行うしゅうげんとは少し異なっていてな。おみき(お酒)をのむ代わりに、アユをお嫁さんとおむこさんはぺろりと一のみにしたそうな。ほうして、見ているものたちには、あぶらあげが入ったお皿が一人一人にくばられて、みんなパクパクと食ったと。あんにゃも食わんといけんと思い、食うたけれど、不思議なくらいおいしかったと。神主さんと思えるきつねが、何やらぶつぶつわけのわからんことをいっておったが、最後にパンパンと手を打ち、しゅうげんは終わったと。
ほうして、お宮さんの前にむしろが何枚もしかれて、宴会(えんかい)になってな。その時は、おいしい魚や料理がさくさん出され、あんにゃの好きなお酒もたくさん出たと。あんにゃは、お酒をぐいぐいとのみ、えらくええ気持ちになってな。ついにはみんなの前におどり始めてしまったと。そのおどりがおもしろうてな。きつねたちはとてもよろこんだと。だけんど、あんにゃは、おどっているうちにあっちぇ(あつく)なってしまい、きつねのお面をぬいでしまったんと。それを見て、おむこさんたちの方のきつねはたまげてしまったんろも、
「「仲間のきつねを助けてくれたんすけ、まあええか。」
ということで最後まで楽しませてもろうたと。披露宴(ひろうえん)も終わりになって、帰ることになり、きつねからみやげの箱をもらったと。
「それをいつまでも大切にしておきなさい。」
といわれたと。
だけんど、あんにゃは酒をのみすぎて、ぐてんぐてんになってしまったと。ほんで、帰りはお嫁さんがのってきたかごに乗せてもらい、あんにゃの家まで送ってもらったと。もうすでに朝方になっておったと。
ばさは、心配でずっとねねえで(ねないで)待っておったんやが、
「トントン、トントン。」
と戸をたたく音がするんで、急いで出てみたら、あんにゃが戸口でぐうぐうねておったと。
「せがれ、起きろや。」
といってあんにゃを起こし、水をたんとのませたと。男はきのうのことをばさに話し、みやげの箱を開けたんと。その中には、大黒さまのおきものが入ってあり、手紙もついてあったと。
「このおきものをたなに飾っておけばいいことがあるすけ、ほんで酒をほどぼとにしてばさを大切にしなや。」
と書かれてあったと。
そのおきものを飾っておいたれば、きだてのええ嫁もすぐ見つかり、また嫁といっしょによく働き、少しずつしんしょ(財産)がよくなったと。
あんにゃは、ばさと嫁を大切にしたと。だが、酒はなかなかやめんかったと。
いちごブラーンとさがった。

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