ぬすっと


むかし、あったてんがな。
ある年、村の畑のいもやきゅうりやなすが毎晩ぬすまれたんてや。
ほんで、村人は、そのどろぼうをつかまえようとして畑でみはってたんと。
ほうすると、畑の一本道の向こうよりちっちゃな影が5つ6つやってきたんと。みんな背中にかごをしょっていたと。月が出ていなかったんで顔はよく見えんかったと。そのぬすっとは、畑の大根をスポスポすばやくぬくと、かごの中に入れたと。村人はそれを見て、いっせいに飛びだしてつかまえようとしたんども、ぬすっとは、とてもすばしっこくて畑の一本道をピューと逃げていったと。村人はだれ一人として追いつくことができんかったと。
ほうして、もうぬすみにこんと村人は思うていたんども、次の日もそのまた次の日もぬすまれたんと。
ぬすっとにわからんように後をつけたこともあったんども、目が頭の後ろにあるようなぬすっとで、すぐばれてしまい逃げられてしまったと。
「こまったのう。どうしたもんかのう。」
「そうだ。村一番の足の速いのんべえの与助に後をおいかけてもらおうや。」
ほうして、与助は村人にたのまれて酒一升でそれを引き受けることにしたんと。
与助は一人で畑の中にかくれていたんと。ほうするといつものようにぬすっとがやってきて、きゅうりをどんどんとぬきはじめたんと。
「おいおめえら、やめんかい。」
と与助がいうと、ぬすっとはすごい勢いで逃げていったんと。与助は一本道をひっしになっておいかけたんと。
だんだんと離されていったろも、ぬすっとが村はずれのさびれた神社の中に逃げこむのを見たんと。ほんで与助は神社のとびらにぼうをはさめ、開かないようにして、村人を呼んできたと。
「さて、どうしたもんかのう。」
「与助、中をのぞいて見ろや。」
ほういわれて、与助は戸のすき間から中をのぞいたんと。中はしんとして、野菜のくさったにおいが鼻をついたと。
「よし、とっつかまえよう。」
村人は、ぼうをもって中に入ったと。中はくさった野菜がいっぺことあり、その奥に5つの影があったと。
「おい、お前ら出てこい。」
村人がほういってもその影はまったく動かなかったと。
「あんれ、これはきつねの石像だて。おいなり様だて。」
「おりなり様がぬすっとだったとはのう。」
「あんまり、おそなえをあげんと、ここをほったらかしにしたすけ、おいなり様がおこったんやろな。」
そんで(それで)村人はこの神社を立て直すことに決めたんと。お供えもぎょうさん(たくさん)あげたと。
いちごブラーンとさがった。

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