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むかし、あったてんがな。
あるところに、とと(父)とかか(母)が住んでおったと。ととは酒のみで毎日のんだくれておったて。
かかがある日、もんくいったら、
「おめえのようなもんは、出てけ。去り状(りえん状)書くすけ(から)、まってろ。」
といったと。
「おめ(おまえ)さんに字が書けるんか。」
といいながらかかは、すみをすったと。
「書けるわい。」
といってととは、いっしょうますとカマに犬という字を書いたって。
「これは、いっしょうかまワンと読むんだ。わかったか。とっとと帰れ。」
ほうして、かかはそれをもって実家に帰ったと。
かかの親は、
「それはよかったの。あんな酒のみのつまらん男と別れられて。」
といったと。
次の日、よいのさめたととは、かかをつれもどしにかかの家にいったと。
「おれはおめ(お前)がいねどだめらすけ(だから)、もどってくれや。」
「そんなこというたって、去り状もろたすけ、お前さんのかかではないよ。」
「去り状書いたおぼえはないの。」
「そんなこというたって、ここにあるろ。」
といっていっしょうますとカマを見せたと。
ととはそれを見てしばらく考えて、
「犬はワンとなくだけでなく、ウーともいうがね。それはいっしょうかまウーというんて。はよ家にかえろて。」
といったと。かかは、それでもどることにしたんと。
いちごブラーンとさけた。
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