見るなのタンス


むかし、あったてんがの
ある男が旅に出かけたんと。山道を歩いていたら、日がくれてしまい道にまよってしまったんてや。
すると、わかい娘が通りかかったんと。
「おら、道にまよってこまってるんが。」
と男が娘にいうと、
「なら、おらの家にとめてやる。ついてきなせや。」
とやさしいことをいってくれたんと。
男がついていくと、山の中にかやぶきの小さな家があったと。
「たった一人だすけ、気にせずとまっていけや。」
といってくれたと。
次の朝、娘は、
「おら、町に用があるすけ、るすばんしてくれ。のんだりくったりしてもかまわんすけ。だけんど、このタンスの中だけは見んでな。」
といって出かけてしまったんてや。
男は、見るなといわれるとますます見たくなり、タンスの一番目を見たと。
ほうしたれば、引き出しの中に青々としたいねが風になびいていたと。
「これはたまげたな。」
と思い、二番目を開けて見たと。
すると、実ったいねが稲穂(いなほ)をたれていたんと。
「これゃまた、ぶったまげたな。」
とおもうて、三番目もあけて見たんと。
すると、ちんこい(ちいさい)たまごがいっぺこと(たくさん)あったてや。
「こりゃ何のたまごだろ。」
とおもうていた時に、娘が帰ってきたんて。
男は、しらん顔してすわり、お茶をのんでいたんやが、
娘は、
「おまえ、タンスの中を見たの。あれほどたのんでおいたに、もしおまえが見なければお前の嫁になろうと思うたんに。かなしいて。」
ほういうと、一わのうぐいすになって、どこかへ飛んでいったと。
ほうしたら、あたりが一面、野原(のはら)になってしもうたんと。
いちごブラーンとさがった。


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