踊る五人の子ども

 六年生の康夫と良太は大の仲良しである。家も近くであり、何をするにも一緒に行動していた。その日も放課後、二人は体育館の用具室で時間がたつのも忘れてマットで飛び跳ねたり、隠れんぼをしたりして遊んでいた。五時のチャイムが鳴った。しかし、それを無視してずっと遊んでいた。体育館にはすでに誰もいなかった。しばらくすると日直の先生がやって来た。
「見つかると怒られるから、ここに隠れていよう」
「おう」
 二人は体育用具室に隠れていたが、先生はその部屋のカギをかけてしまった。二人は気づいたが、先生はすでにいなかった。
「おおい、出してくれー」
 と二人は叫んだが、誰も来てくれなかった。
「困ったな。康夫。どうしよう」
「しょうがないな。明日までここにいるしかないよ」
 二人は諦めて、ここで開くまで待つことにした。そして、二人はマットの上で並んで眠った。
 真夜中のことである。良太はドアの外の物音に眼を覚ました。
「おい、康夫。起きろ。何か物音が聞こえるぞ」
「何だ。誰か助けに来てくれたのか?」
「おい、康夫。カギ穴を覗いてみろよ」
 康夫が覗くと、体育館のステージの上で五人の色とりどりの帽子をかぶった子どもたちが踊っていた。一年生ぐらいであった。電気はついていなかったが、子どもたちは青白い光を発していた。二人はカギ穴から交互に何度も覗いた。
「どこかで見たことのある子どもだな」
 良太がそうつぶやいた。
 その時、良太がふと、棒高跳びのポールを倒してしまった。大きな音がした。すると五人の子どもたちは踊りを止めて、体育用具室の方をじっと見た。そして、こちらに向かって歩いてきた。眼は瞳がなく、真っ白だった。
「おい、大変だ!見つかってしまうぞ。隠れよう」
 と康夫が言った。
 良太は跳び箱を開けてその中に隠れた。康夫はマットの下に隠れた。しかし、右足が少し出ていた。
 ドアにはカギがかかっていたにも関わらず、すっと開いた。二人はぶるぶるふるえていた。ついに康夫の足が見つけられてしまった。ずるずるとマットから引きずり出され、五人に担がれ、用具室から連れ出された。
「助けてくれー」
 康夫の声が体育館中に響き渡った。しかし良太はふるえるばかりであった。
 しばらくすると康夫の悲鳴は聞こえなくなった。良太はおそるおそる跳び箱から出て、カギ穴を覗いた。すると五人の子どもたちはステージの上で康夫を担いで回していた。康夫は気を失っている様だった。そしてそのまま、ステージの横のカーテンの方に隠れてしまった。すると青白い光はすっかり消えて真っ暗になった。良太はそのままそこで寝てしまった。 次の朝、先生が用具室のカギを開けた。すると良太が寝転んでいた。良太は起こされ、昨日の夜のでき事を詳しく先生に話した。
「そんなこと信じられないなあ。しかし、康夫は行方不明になっていることは確かだ。調べてみよう」
 そう言うと先生は良太を連れて、体育館のステージに行った。すると康夫の片方の靴がステージの脇に発見された。近くに汚れた大きな絵があった。これは二十年前の卒業生が卒業記念で制作したものだった。五人の子どもたちが森の中で踊っている絵だった。あまりにも汚くなったので、体育館の壁から下ろし、この場所に置かれてあったのである。
 康夫の足が絵の後ろからはみ出しているのを先生が発見した。絵の後ろから先生に引きずり出された。
「康夫、大丈夫か?」
「ううん・・・・・・。あっ、先生。ぼくは助かったんですね」
 康夫は昨日のでき事を話した。先生は半信半疑であったが、この絵をこのままにしておく訳にもいかないので、二人と先生で絵の壊れたか所を修理した。そして、元あった場所に飾ることにした。それ以来、五人の子どもは現れることがなかった。

                                               おわり

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