屋上の少年
12月になったばかりのことである。放課後、六年生の少年三人が屋上で遊んでいた。屋上で遊ぶことは危険であるので禁止されていたが、三人はそれを無視していた。五時頃であろうか、遊びにあきたB君とC君はA君を少しからかってやろうと思い、A君を屋上に閉じこめて、屋上につながるドアにカギをかけてしまった。
「おおい開けてくれよ」
と言いながらA君はドアを叩いたが、鉄でできていたので、びくともしなかった。
ちょうどその時、
「下校時刻を過ぎています。残っている子供たちは早く帰りなさい。今から日直の先生が回ります。絶対に残っていないようにしましょう」
という校内放送が入った。
「やばい!今のは生徒指導の内山先生の声だ。残っているとしかられるぞ」
「そうだ。早く帰ろう」
二人は階段を駆け下りていった。
「おい、Aはどうするんだ?」
「大丈夫だよ。誰かが開けてくれるよ」
二人は急いで児童玄関を出ていった。家に着く頃には二人は既にA君のことは忘れていた。
その夜、寒波がやって来た。雪が朝まで降り続き、五十センチほどの積雪となった。二人は暖かい服装で学校にやって来た。昨日のことは全く忘れていた。学級朝会の時、担任の佐々木先生が、
「おや、A君がいないようだが。誰か欠席の連絡を受けているか?」
とクラスのみんなに聞いた。
その時になって二人は昨日の出来事を思い出した。二人は真っ青になってしまった。
二人は泣きべそをかきながら昨日の出来事を佐々木先生に話した。佐々木先生もその話しを聞いてとても驚き、二人を連れて屋上に向かった。屋上のドアにはカギがかかっていた。カギを開けると一面の銀世界が広がっていた。屋上の真ん中辺りの雪が少し膨らんでいた。三人は急いでその雪の手で取り除いた。すると木の箱が出てきた。三人は少しほっとした。佐々木先生は辺りを見渡したが、一面平らであり、人の埋まっている気配は感じられなかった。それで下に落ちたのかも知れないと思い、屋上から周囲を見下ろしたが、それらしい様子は感じられなかった。他の先生にも手伝ってもらい、学校の周囲を詳しく探した。しかしそれらしい跡は見られなかった。それで佐々木先生は二人を引き連れて、A君の家に行くことにした。A君の家に電話を何度かけても留守番電話となっていたからである。
A君の家について玄関のベルをいくら鳴らしても誰も出てこなかった。佐々木先生が玄関のドアを開けてみるとカギはかかっていなかった。それで中に入って大声で「誰かいませんか」と叫んだ。すると奥の方から、
「せんせい・・・」
という小さい声が聞こえてきた。
佐々木先生と二人の少年は急いで奥の部屋に向かった。するとA君が布団に真っ赤な顔をして寝ていた。
「おい、大丈夫か」
と佐々木先生はややほっとした様子で訊いた。
「はい、風邪をひいちゃいました」
「ごめんよ。ごめんよ」
そういって二人の少年はA君に謝った。
「でもどうして助かったんだい?」
と佐々木先生は訊いた。
「話せば長いんだけれど・・・・・・。雪が降り始めて、このままでは凍死するかも知れないと思ったので、屋上から何が何でも降りようとしたんだ。でもドアはびくともしないし・・・・・・。それで校舎の脇に屋上から下まで伸びてついている下水管にしがみついて降りたんだ。しかし、途中で下水管が折れそうになってとても怖かったよ。でも降りることはできたけれど、風邪をひいちゃった」
「そうかい。それは大変だったね。でも、命が助かって本当に良かったよ」
と佐々木先生はしみじみ言った。
二人の少年も涙を見せながらほっとした様子だった。だが二人はその後、担任の先生だけでなく、校長先生からも親からも厳しく叱られたのである。
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