名句小劇場「あきの風の句」
太陰暦7月24日(太陽暦9月7日) 芭蕉と楚良(筆者)と北肢(筆者)の三人は、小松へ向かったが、その途中、夕日の見える茶屋で休憩をする。
北肢「おお、夕日が綺麗ですなあ」
芭蕉「そうじゃのう・・・。処で、楚良よ。どうじゃ、腹の具合は?」
楚良「そうですねぇ。まあまあという感じでしょうか・・・。何とかなりそうです」
芭蕉「そうか・・・。では一句詠むとするかのう」
そういうと、書き物を取り出し、一句書き始めた。
あかあかと日は難面(つれなく)もあきの風 芭蕉
楚良「夕日は赤々として残暑はまだまだ厳しいが、夕方になって吹く風は秋を感じさせる、という意味でしょうか」
芭蕉「そうじゃのう・・・」
北肢「古今集の『秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる』という和歌を思い出させる句ですねぇ」
芭蕉「おお、その和歌をご存じであったか。なかなか教養がおありのようじゃ・・・」
楚良「名歌を参考にして句を詠むということもあるんですね」
芭蕉「そうじゃ。ただし名歌に限る。教養のある方なら誰でもが知っている名歌ならなおよい」
楚良「ではわたしも・・・」
そういって暫く考えてみたが、なかなか句が思い浮かばなかった。
楚良「うーん、この詠み方はなかなかの教養が必要ですねぇ。まあ、わたしには向かない詠み方であることが分かりましたよ」
そういって力なく笑った。
芭蕉「なら普通に詠んでご覧なさい」
北肢「それでは楚良殿の前に、わたしから一句披露しましょう」
日本海に赤絵の具流す秋夕日 北肢
楚良「おお、日本海が赤く染まることを赤絵の具が夕日から流れ出し、赤く染まっていくと表現したのですな。なかなかの技巧句ですな」
芭蕉「秋夕日、という表現に推敲の余地がござろう」
北肢「はい、よく考えてみたいと思います」
楚良「それでは私も一句」
秋の風夕日の海を揺らめかし 楚良
北肢「おお、秋風が夕日で染まりつつある海をゆらゆらと揺らしています、という意味でしょうか。なかなかの・・・ですね。いや、あまり褒めてばかりではいけなかったのですね・・・」
芭蕉「まあ、旅であるからして楽しんで詠むということも大切じゃ。気楽な詠み方も時には良かろうぞ」
その日、三人は暗くなった頃、小松に到着し、近江屋に宿泊をした。
2008・6・7