名句小劇場「有磯海の句」
太陰暦7月14日(太陽暦8月28日)
天候快晴 朝、滑川を出発して、神通川や庄川を渡り、高岡へと旅を続けた。芭蕉と楚良(筆者)が歩く右手には有磯海(富山湾)が広がっていた。猛暑が続き、その夜は高岡に宿を取った。
楚良「残暑が厳しいですね・・・」
芭蕉「そうじゃな・・・。少し休むことにいたそう」
二人は笠をとり、道の脇の木陰で休むことにした。
楚良「ここら辺の稲は早いですね」
芭蕉「そうじゃな。辺り一面、稲穂が金色に靡いておるな」
楚良「向こうに見えるのは、有磯の海ですね」
芭蕉「そうじゃ。海老やイカが美味しいそうじゃ」
楚良「いやいや、食べてみたいですなあ」
芭蕉「それは兎も角、ここらで一句じゃな」
楚良「そうですね・・・」
楚良は書き物を取り出し、一句直ぐに書き出した。歩きながら考えていた様である。
楚良「出来ました」
芭蕉「えらく早いのう」
早稲の波泳ぐが如く進みけり 楚良
楚良「如何です?」
芭蕉「如くの比喩が決まっているかどうかじゃな。うーん、難しい処じゃ。比喩ははっとするものがなければ、だんだんと聴いているうちに飽きられてしまうからな」
楚良「それで飽きられますかな?」
芭蕉「波で泳ぐ、だからのう・・・」
楚良「やはり、平凡ということでしょうか・・・」
楚良「では次の句は如何?」
有磯海の波押し寄せて稲穂波
楚良
芭蕉「有磯海の波と稲穂の波とで、『波つながり』ということじゃな。先ほどの句よりは少しはましであろう」
楚良「ありがとうございます」
芭蕉「褒めた訳ではない」
楚良「はい、師匠はどのような句を・・・」
芭蕉「そうじゃな・・・」
芭蕉は暫く考えていたが、一句書き出した。
わせの香や分入右は有磯海 芭蕉
楚良「これは、『広々と早稲の稲穂が垂れ、その匂いのする中を分け入って行くと、右手には有磯の海が見える』という意味でしょうか?」
芭蕉「そうじゃな・・・」
楚良「加賀百万石に相応しい大きな句ですね。名句の一つですね」
芭蕉「それはどうかな・・・」
二人は暫く休憩すると、再び笠を被り、有磯の海を右手に見ながら、高岡に向かって歩き出した。稲穂の黄金波がさわさわとそよいでいた・・・。
2008.5.31