名句小劇場「暑き日の句」
太陰暦6月15日(太陽暦7月31日) 川舟に乗って酒田に下る。 暮れ頃到着する。
楚良「おお、日本海に夕日が沈んでいきますよ。何と美しい景色でしょう」
楚良はまじまじと川舟から夕日を眺め感激していた。
芭蕉「そうじゃのう。江戸で見る朝日よりも夕日の方がはるかに美しいな」
楚良「こりゃあいい句ができそうですね。師匠」
芭蕉「うむ」
そういうと芭蕉は一気に句を書き出した。
涼しさや海に入れたる最上川
芭蕉
芭蕉「どうじゃな、楚良」
芭蕉はなかなか自信ありげにいった。
楚良「おお、素晴らしい句ですな。でも・・・・・・」
芭蕉「でも、とは何じゃ?」
楚良「何を海に入れたんですか? 入れたものは最上川ですか? 最上川が涼しさを海に入れたんですか?」
芭蕉「馬鹿もん!! そんな解釈があるか!!」
いつもはそんなに怒ることのない芭蕉が珍しく激怒した。
楚良「申し訳ございません」
といってぺこぺこ謝った。
芭蕉「・・・・・・しかし、そんな疑問を持たせる句は良くないということじゃのう。この句の意味は、最上川が暑い日を水の流れによって日本海に沈み込ませ、辺りが涼しくなっていくという意味じゃが、無理があるのかもしれん」
楚良「なるほど、深い意味があったんですのう。よく分かりました」
芭蕉「よく分かったのは説明を聞いたからじゃろう。・・・やはりこの句は拙いな」
芭蕉は舟を下りてもこの句のことばかり考えていた。宿に着き、飯を食べ、風呂に入ってからふと閃いた。
芭蕉「どうじゃ、楚良。これでどうじゃ」
暑き日を海にいれたり最上川
芭蕉
楚良「おお、名句ですな!」
芭蕉「お前は意味が分かってそういってるのか!」
楚良「もちろんですとも。最上川が暑い日を日本海に沈み込ませているということでしょう。『涼しさや』より『暑き日を』の方がずっといいですね。大きな迫力のある句ですよ。これは後生に残る句ですな」
芭蕉「それほどとは思わんが、わしの自信作じゃ」
楚良「ええ、素晴らしい名句ですよ」
芭蕉「そうか・・・・。ところで楚良はどんな句を詠んだのじゃ?」
楚良「名句の前では恥ずかしすぎます。披露したくこざいません」
芭蕉「まあよい。ここには二人しかおらんのだから、良くなければ聞かなったことにしよう」
芭蕉にそういわれて、楚良は一句披露した。
最上川夕日頭に蛇の如し
楚良
芭蕉「季語は蛇かな。・・・・・・まあよい」
そんなことを話しているうちに酒田の港に到着した。
ここでは、渕庵不玉という俳諧好きの医者の家に泊まった。
芭蕉「明日は早い。寝ようぞ」
楚良「・・・・・・はい、寝ましょう」
二人は布団を並べて横になった。しかし楚良はなかなか寝つかれなかった・・・・・・。
2008.5.23