名句小劇場「あやめ草の句」
芭蕉と楚良は、仙台で絵かきの北野屋加衛門と知り合いになった。加衛門の案内で東照宮や国分寺跡など見物した。
太陰暦5月8日(太陽暦6月24日) 二人が仙台を出発する前に加衛門がやって来て、餞別に松島の絵と草鞋を戴いた。
楚良「おや、加衛門殿が下さった草鞋の緒には、藍に染めた麻の鼻緒が付いてますね・・・」
芭蕉「藍はまむしよけだそうな。旅の安全を考えて、下さったのじゃよ」
楚良「ありがたいことですねえ・・・」
芭蕉「そうじゃな・・・」
そういうと書き物を取り出し、一句したためた。
あやめ草足に結ん草鞋(わらじ)の緒
芭蕉
楚良「この句は、『あやめ草、つまり菖蒲の葉を思わせる色の鼻緒を結んで、旅に出よう』という意味でしょうか」
芭蕉「そうじゃ。加衛門殿への感謝の句じゃな・・・」
楚良「ですが、本当に『菖蒲の葉を草鞋の鼻緒として結ぶ』と思う人もいるかも知れませんね」
芭蕉「それはそれでよい」
楚良「はい、分かりました」
芭蕉「楚良も一句詠んでご覧なさい」
そういわれ、暫く考え、一句披露した。
新しき草鞋嬉しやあやめ草 楚良
芭蕉「おお、気持ちの出ている句じゃな。じゃが、『嬉し』などと露骨に感情を句には入れん方がよいであろう」
楚良「はい、では『嬉しや』を『軽やか』に替えましょうか」
芭蕉「その方がよいであろう」
新しき草鞋軽やかあやめ草 楚良
二人はその草鞋を履いて、塩釜に向かった。塩釜では塩竃神社など、いくつかの名所を訪ね、次の日(太陰暦5月9日)、船に乗り松島へ行った。
楚良「ついに松島に来ましたね・・・」
芭蕉「そうじゃ・・・。来てしまったなあ」
二人は言葉少なに暫く島々を眺めていた・・・。
楚良「『松島やああ松島や松島や』という気分ですね」
芭蕉「それは句かな・・・?」
楚良「そうですね。句になりますね・・・」
芭蕉「実に凡な発想じゃ・・・」
楚良「まあ、平凡かも知れませんが、これが師匠の句となると話は別でしょう。芭蕉翁が詠んだ句だから素晴らしいということになるかも知れませんね・・・」
といって楚良は笑った。
芭蕉「もしそうなったら、実に不快じゃな・・・。作者名などなくても名句は名句なのじゃ・・・」
楚良「はい、そうですね・・・」
二人は再び黙ったまま松島を眺めていた・・・。カモメが数羽、海の上を漂いながら飛んでいた・・・。
2008.6.6