名句小劇場「萩と月の句」

 太陰暦7月12日(太陽暦8月26日) 天気快晴 新潟県西頸城郡能生町を出発する。親知らず子しらずの難所を越えて、市振の宿に到着する。その宿にはお伊勢参りに行く新潟からの遊女二人と見送りの老人が二人の隣に泊まっていた。遊女たちは明日新潟に帰る老人に手紙や言づてを託している様子だった。

楚良「遊女と一緒の宿というのも何かの縁でしょうか?」
芭蕉「そうじゃのう・・・」
楚良「一句できそうですね」
そういうと楚良は書き物を取り出し、さらさらと書き出した。

かぐや姫月より来たりて萩の宿      楚良

芭蕉「遊女がかぐや姫か?」
楚良「はい、かぐや姫の如き遊女ということで・・・」
芭蕉「まあ、それも趣があって佳いかもしれん」
楚良「ありがとうございます。師匠に褒めてもらえると元気がでます」
といって笑った。
楚良「師匠は如何いたします?」
芭蕉は暫く考えていたが、書き物に一句書き出した。

一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月    芭蕉

楚良「この句の意味は、『月も出て、庭に萩が咲き乱れる宿に、遊女と一緒に私たちは泊まったことだ』ということでしょうか?」
芭蕉「そういうことじゃが、『これも何かの縁なのだろう』という感慨も含まれておるな」
楚良「なるほど、これも名句ですね」
芭蕉「それはどうだか・・・」
楚良「さて、句ができたので、句づくりはこれまでにして、どうしましょう? 遊女は二人ですよ。我々も二人ですが・・・・・・」
芭蕉「楚良よ。遊女から佳い句を得させてもらったのじゃぞ。それでよいではないか」
楚良「なるほど、我々は文芸の旅をしていのですね。文芸に女遊びなどは・・・」
芭蕉「いやいや、そういうことではない。時には遊びも必要じゃ。だがな、こんなにいい月が出ており、こんなに素晴らしい萩が咲き誇っておるのじゃ。それだけでいい気分になれるではないかのう。それに親しらず子しらずを越えてきたので、少し疲れたようじゃ。先に寝させてもらうよ」
 そういうと芭蕉は布団を敷いて直ぐに寝てしまった。楚良も一緒に寝たのであるが、隣の話が気になり、なかなか寝付かれなかった・・・。

                                               2008.5.29