名句小劇場「ほととぎすの句」
太陰暦4月19日(太陽暦6月6日)
天候快晴 温泉神社へ殺生石を見るため馬に乗って行く。その途中で馬子に句を贈呈する。
馬子「師匠は有名な俳人とのこと。一つ句を詠んでくださるかな」
と馬の手綱を持つ男がいった。身分はただの馬子ではなく、教養のある人物にも見えた。
芭蕉「そうじゃな。これも何かの縁であろう・・・」
馬に乗りながら、暫く考えていたが、一句披露した。
野を横に馬牽(ひき)むけよほとゝぎす
芭蕉
馬子「素晴らしい句なのでしょうが、どういう意味でしょうかな?」
芭蕉「それはじゃな。『馬をひいて、大きな夏の野原を横切って行けよ。ほとどぎすも啼いておるぞ』という風な意味じゃ」
馬子「なるとほど、大きな句ですな。とても気に入りましたぞ」
楚良「ではわしも一句」
何処までも馬に揺られて夏野かな 楚良
馬子「楚良殿の句もなかなかよいですな」
楚良「そうですか。いやおぬし様は教養がおありで・・・」
馬子「いやいや、書物を読むのは好きですがのう・・・」
芭蕉「書物が好きとは、なかなか大したものですな。ところでお名前は・・・」
馬子「名乗るほどのものではございませんが、来角左衛門と申します」
芭蕉「そうですか、名前を覚えておきましょう」
お昼頃、一行は温泉神社に到着した。そこで左衛門と別れ、殺生石を見に行った。
殺生石とは、「玉藻(たまも)の前」という九尾の狐が化けた絶世の美女の化身とされているものであり、毒気を含んだ巨岩である。
楚良「おお、殺生石が見えますよ。石というより岩でしょうな」
芭蕉「この辺りは毒気が至る所に噴出していると訊いたが、気をつけようぞ」
二人は書き物を取り出し、考えはじめた。
まず楚良が一句、書き出した。
木下闇美女の吐きたる毒気かな
楚良
芭蕉「毒毒しいのう」
楚良「はい、『美人で化け物の玉藻の前が木の下で、薫りのよい毒気を吐いて、男達をたぶらかして喰っている』という意味です。少し大きく解釈しています。ところで、師匠は?」
芭蕉「いやいや、楚良の句を訊いていたら、気分が少しおかしくなってきた」
楚良「では、行きましょう。気のせいでしょうか。私も少し息苦しくなってきました」
芭蕉「そうじゃのう。体が大事じゃ。早く退散、退散じゃ」
二人は急いでその場を立ち去り、近くの和泉屋五左衛門の家に宿をとった。
2008.5.24