名句小劇場「いろの浜の二句」

 太陰暦8月16日(太陽暦9月29日)  天候晴 芭蕉は、西行法師が歌に詠んだといわれている種(いろ)の浜(現在は色浜という)に行って、ますおの貝を拾いたいと思った。それで等才(筆者)と一緒に舟に乗ってその浜に行った。種の浜は数少ない漁師の家と寂しげな法華宗の本隆寺があるだけだった。二人は舟から浜に降り立ち、村の中を散策した。

等才「何と寂しい村でしょう」
芭蕉「そうじゃな・・・」
等才「本当に西行法師はここを訪れたのでしょうか?」
芭蕉「それは間違いのないことじゃ。はっきりと歌にも示されておる」
等才「では、ここで一句詠まねばなりませんね・・・。それでは私から一句」

寂しさの似合ふ村かな秋日和      等才

芭蕉「確かにそういわれればそんな気もするが・・・」
等才「ありがとうございます。お褒めいただいたと理解いたします・・・」
芭蕉「では、次はわしじゃな」

寂しさの須磨にかちたる浜の秋     芭蕉

等才「これは、『昔から秋の寂しい処として知られている須磨と比べても、こちらの方が寂しさが勝っている秋の浜だ』という意味ですね。須磨という地名が出てくる処が素晴らしいです。私にはそんな言葉が浮かびません。これは名句ですね」
そういわれ、芭蕉もまんざらではではない表情をした。
二人は一通り散策するとその寺を訪れ、和尚に挨拶をした。和尚はこんな村に有名な俳人が訪れるのはめったにないということで、お茶やお酒を勧めたりしてくれた。

和尚「この島には何もありませんが、お酒でも一つお飲みください」
芭蕉「ありがとうございます。とても美味しく感じられます。西行法師もこの寺を訪れたのでしょうか?」
和尚「それはよく分かりませんが、この浜を訪れたことは確かなようです」
芭蕉「西行法師には、『汐染むるますほの小貝拾ふとて色の浜とはいふにやあらん』という歌がありましたな。ここの浜で西行法師は、ますおの小貝を拾ったのでしょう」
等才「処でますおの小貝というのは、どんな貝なのですか?」
和尚「それはですね。正しくは真蘇枋(ますおう)の小貝といいましてね。蘇枋で染めたように赤い貝ですよ。とても小さな貝です」
芭蕉「それではその貝を拾って、門人たちのみやげといたそう」
芭蕉と等才は、和尚と共に浜に行き、和尚から貝の取り方などをよく聞いて、たくさんのますおの小貝を拾い集めた。小貝は波打ち際できらきらと赤く輝いていた。
芭蕉「これだけあれば十分じゃろう」
等才「そうですね。おや、貝に混じって花びらも見られますよ。これは萩でしょうか?」
芭蕉「そうじゃな。萩の花が波打ち際に混じっているようじゃ」
そういうと芭蕉は思いついたように、筆を取り出し、一句したためた。

波の間や小貝にまじる萩の塵      芭蕉

等才「これは、『波のうち寄せる波際を見ていると、ますおの小貝が見えます。またその貝に混じって散った萩の花もうち寄せられています』という意味ですね。正しく名句ですね」
和尚「すばらしい名句ですね。これらの名句を是非ともわが寺に残してほしいものです」
和尚がどうしてもとせがむので、この日の出来事や句などを等才に書かせて和尚に手渡した。和尚はとても喜んで、寺に泊まっていくよう強く勧めるので、一泊することにした。

                                          2008.6.12