名句小劇場「最上川の句」

太陰歴5月29日(太陽暦7月15日)  昼頃 大石田 天候曇  大石田から船に乗って最上川を下る予定であった。

芭蕉と楚良(筆者)は大石田に向かって歩いていた。
楚良「おや、師匠。最上川が見えてきましたよ。いやあ、なかなか大きな川ですな」
芭蕉「うむ、隅田川よりも流れが急じゃのう」
楚良「昨晩、雨が降りましたからねえ・・・。五月雨で水が増えたんでしょう」
二人は船着き場に行ったが、船頭の話では、水かさが五月雨で増えたために船は今日は出せないとのこと。それで大石田に一泊することになった。

芭蕉「うむ、五月雨ではしかたあるまい・・・。それで一つ、句を詠もうか」
楚良「五月雨ですか。いいですね・・・」
そういうと楚良は書き物を取り出し、頭に浮かんだ句を素早く書き始めた。
楚良「はい師匠、できました。」

五月雨や昨日降りたる最上川   楚良

楚良「如何です。なかなかでしょう」
芭蕉「それは事実を述べただけの句じゃな。何の面白みも感じられんな」
楚良「そうですか・・・。五月雨はこの辺り一帯に降ったんでしょうか?」
芭蕉「最上川の上流じゃろうな。この辺りはそれほどでもなかったようじゃ」
そういうと芭蕉は書き物を取り出し、句を書き始めた。
芭蕉「どうじゃな。こんな句は・・・」

五月雨をあつめて涼し最上川    芭蕉

楚良『なかなかいい句ですな。しかし、「涼し」といわれましても、最上川は水の量が増えて怖い川という感じがしますが・・・』
芭蕉『「涼し」ではいま一つか、怖さや迫力を出すとしたら、うーん、「早し」ではどうであろうか・・・』

五月雨をあつめて早し最上川    芭蕉

楚良「迫力のある最上川になりましたな。言葉一つで全く変わってしまいましたよ。さすが師匠ですね。処で五月雨はどこからやって来るのでしょう?」
芭蕉「それは空の雲からじゃろう」
それを訊き、楚良は暫く考え、次の句を書いた。

五月雨を溜めて迫るや暗黒雲      楚良

楚良「どうです。五月雨が落ちる前の様子を詠んでみたんですか・・・」
芭蕉「まあ、悪くはないが、最上川はどうした?」
楚良「はい、消えました。五月雨だけでしゅうぶんです」
芭蕉「どこでも詠める句じゃな。それに五月雨が降るかどうかまだ分からんではないか」
楚良「はい、そうですね。師匠に敵うわけありませんよ。ハハハハ・・・・・。でも師匠、五月雨は結局何処へ行くんでしょう?」
芭蕉「それは日本海じゃな。それでお終いじゃよ」
それを訊いて楚良はまた何かを書き始めた。

最上川五月雨集めて日本海      楚良

楚良「どうです。こんな句は」
芭蕉「わしの句を真似た感じじゃな。それに少し間延びしておるな」
楚良「はい、本歌取りならぬ、本句取りですよ」
芭蕉「本句取りはまだ早いじゃろうて。ハハハハハ・・・・・・」
楚良「なら次の句はどうですか」

日本海五月雨入れて日を入れて    楚良

芭蕉「楚良らしく、なかなか調子のいい句じゃのう」
楚良「師匠の句は名句ばかりですから、本句取りしやすいですな」
芭蕉「まあ、それも良かろう。修行修行じゃな。さて、泊まる場所を捜そう」

二人は寺に泊まろうとしたが、江戸から俳諧の宗匠が来てくれたということで、俳諧を好む人らが集まってきた。昔から俳諧の盛んな土地であるらしく、俳諧の進むべき方向が分からず、困っているというので、やむを得ずその人たちの相手をしてやり、歌仙一巻を残すことになった。これはとても意義のあることだと芭蕉は考えた。
翌朝、二人は俳諧の人らの見送りを受けて船に乗り、最上川を下って行った。

                                            2008.5.18