名句小劇場「夏草の句」
太陰暦5月13日(太陽暦6月29日) 平泉 天候晴れ
芭蕉と楚良(筆者)は、平泉の藤原3代の跡を訪ねることにした。
楚良「師匠、なかなか素晴らしい仏閣がありますな」
芭蕉「そうじゃな。藤原3代の隆盛が感じられるようじゃ」
楚良「ですが頼朝殿に討ち滅ぼされる前は五重塔などの素晴らしい仏閣がたくさんあって、京にも負けないくらいだったそうですよ。荒れ果てた草地もたくさん見られますね」
芭蕉「楚良よ、杜甫の詩『春望』の一節を知っておろうか」
楚良「さて、どんなものでしょう」
芭蕉「『国破れて山河あり 城春にして草青みたり』、という漢詩の一節じゃ。そのような雰囲気が漂っている場所が多いな」
楚良「そうですな。では、師匠。この辺りで昔を偲んで一句詠んでみませんか」
芭蕉「そうじゃな」
二人はそれぞれ書き物を取り出し、書き始めた。
楚良「師匠、一句出来ました」
芭蕉「相変わらず早いものじゃ」
荒れ果てし都や夏草ばかりなり 楚良
楚良「どうでしょう?」
芭蕉「どうかな。『荒れ果てる』と『夏草ばかり』は、ほぼ同じ状況ではないか」
楚良「ああ、そうですね。さすが師匠ですね。処で師匠・・・」
芭蕉はふと何かを感じた如く一句書き始めた。
夏草や兵どもが夢の跡
芭蕉
楚良「なかなかの名句だと思いますが、句の意味はどんなですか?」
芭蕉「意味が分からぬで上手い句もないじゃろう。分からぬかのう・・・。『昔、戦があったであろうこの荒れ果てた夏草の生い茂っている野原は、武士たちの夢の残骸のようではないか』という意味じゃ。杜甫の詩から発想したものじゃな」
楚良「なるほど。深い意味のある句なのですね。漢詩から発想するという詠み方もあるのですね」
芭蕉「そうじゃな。古の賢人の知恵を借りるというやり方は、句に深みを与えるということじゃ」
楚良「それに比べると、私の句は、まだまだ句になってないように思います」
芭蕉「それに気づけば進歩したということじゃ。さて、先は長い。中尊寺金色堂に急ごう。金色堂をこの眼でしっかり見たいものじゃ」
二人は金色堂に向かって歩みを早めた。葉陰が石の階段にゆらゆら揺れていた・・・。
2008.5.18