名句小劇場「軒の栗の句」
太陰暦4月23日(太陽暦6月10日) 天候曇 俳人相良等躬の屋敷を出て、隠遁の生活を送っているという僧侶、可伸の庵を訪れる。
楚良「可伸殿の草庵はここのようですよ・・・。世捨て人の生活を送っているとか・・・」
芭蕉「そのようじゃな。おや、軒に栗の花が咲いておるぞ。なかなか趣のある花じゃな・・・」
楚良「そうですか・・・」
芭蕉「楚良には栗の花の趣が分からぬようじゃ・・・」
そういうと芭蕉は書き物を取り出し、一句書き始めた。
世の人の見付ぬ花や軒の栗 芭蕉
楚良「これは、『世の中の人たちが見向きもしないけれど、趣のある栗の花が草庵の軒に咲いていますよ』という意味でしょうか?」
芭蕉「そうじゃな」
楚良「世の中の人の中に、私も入っているということでしょうか?」
芭蕉「正しくそうじゃのう」
楚良「はい、目だたぬ花の趣というものを学びたいと思います」
芭蕉「どうやって学ぶのじゃ?」
楚良「ええ、そうですねえ・・・・・。そのような句を詠むということでしょうか?」
芭蕉「なら詠んでみなさい」
そういわれて、楚良は書き物を取り出し、何とか捻り出した。
栗の花よくよく見れば趣が・・・ 楚良
芭蕉「それは戯れ句か?」
楚良「いえ、決してそのような・・・・・・」
芭蕉「中句の『よくよく見れば』、など童並ではないか! 栗の花にも草庵の主にも失礼であろう!」
楚良「はい、その通りで・・・・・・」
芭蕉「ならもう一度詠んでみなさい」
そういわれ楚良は必死になって、次の句を捻り出した。
草庵に影の揺れをり栗の花 楚良
芭蕉「少しましな句になったな・・・。ただし、それだけということじゃ」
楚良「はい、以後目立たぬ花にもよく注意を払い、詠みたいと思います」
そんなことを話していると、草庵からその声を聞いて可伸殿が現れた。二人は歓迎され、中で俳諧談義を行った。その夕方、再び相良等躬の屋敷に戻り、再び宿泊した。
2008.5.27