名句小劇場「田植うたの句」

太陰暦4月22日(太陽暦6月9日)  天候曇り 芭蕉と楚良(筆者)は、矢吹から須賀川に向かう。

楚良「いよいよみちのくに入りましたね」
芭蕉「そうじゃな・・・・・・」
楚良「なんとなく、風も光も関東とは違う気がしますぞ」
芭蕉「そうじゃな・・・・・・」
楚良「何かしら心の底から句が湧いてきそうですぞ」
芭蕉「そうか・・・。なら一句詠んでみなさい」
楚良「はい、では一句」
そういうと楚良は思いついた句を歩きながら芭蕉に披露した。

みちのくの空何処までも五月晴      楚良

楚良「如何でしょう?」
芭蕉「うむ、空と楚良とを掛けているのじゃな」
楚良「いや、掛けるつもりはありませんでしたが、そういえばそうなりますか・・・」
といって、少し自信ありげに微笑んだ。
芭蕉「楚良にしては、まあまあじゃな・・・・・・」
そういうとふと立ち止まり、近くの小岩に腰掛け、書き物を取り出して一句書き出した。
芭蕉「どうじゃな?」

風流の初(はじめ)やおくの田植うた      芭蕉

楚良「おお、風流とはなかなか思い付かないですな。さすがですな・・・。処でどういう意味で?」
芭蕉「さすが、で意味が分かぬか・・・。まあよい。この意味はじゃな。『みちのくに入ってから聞く田植歌は、風流の初めである』、つまりいろいろな風流の最初が、この田植歌からということじゃな」
楚良「なるほど、そういう意味でしたか・・・私は少し・・・」
芭蕉「少し、とは何じゃ? はっきり申しなさい」
楚良「はい、私は、『みちのくに入ってから聞いた最初の田植歌は、みちのくの最初の風流である』という風に取りました」
芭蕉「・・・なるほど、そういう風にも受け取れようか。なかなかよいところに目をつけたな。しかし、わしは最初の意味で詠んだのじゃ。それで良かろう」
楚良「はい、それで良かろうと思います。後は門人たちがいろいろと議論するでしょうに・・・」
芭蕉は黙ったまま、立ち上がり、再び歩き出した。
夕方、俳人相良等躬の屋敷に着いた。そこで四、五日泊まることになった。

                                            2008.5.26