名句小劇場「散る柳の句」
山中温泉から小松に戻り、太陰暦8月8日(太陽暦9月21日)に小松を出発し、その日のうちに全昌寺に到着する。全昌寺は大聖寺の城下町の外にある寺であり、ここはまだ加賀の国である。先に立った楚良も前の晩にこの寺に泊まっていた。
芭蕉「楚良もここで泊まっておったか・・・。何か因縁めいたものを感じるのう・・・」
北肢「ここは若い僧が修行する寺だそうです。読経の若い声が聞こえてきますなあ」
芭蕉「ここでは早寝早起きだそうじゃ。早く寝ることにいたそう」
二人はその夜はぐっすり休んだ。翌朝、食事を済ませて旅の身支度をしていると、僧侶たちがやってきて、
僧侶「芭蕉様は俳諧の宗匠と聞いておりますが、何か一句、この寺に残して下さい。お願い申します」
芭蕉は一晩やっかいにもなっており、断る理由もなかったので、庭を見ながら一句したためた。
庭掃て出(いで)ばや寺に散柳(ちるやなぎ) 芭蕉
北肢「これは、『寺の庭を掃いて寺を去りましょう。昨日の秋風で柳の葉が庭にいっぱい散っております』という意味でしょうか」
芭蕉「そうじゃ。旅人の中には、寺の清掃をする人もおるらしいそうじゃ」
北肢「われわれは・・・?」
芭蕉「われわれは先を急いでおる。一句をもって礼といさそう」
北肢「そうですね・・・」
芭蕉「北肢殿も一つ残しては如何かな」
北肢「残せるような句は詠めませんが、一句、詠み捨て句を詠みますかな」
散る柳燃やして天に全昌寺 北肢
北肢「この句は、散った柳の葉を集めて燃やし、天に帰しました、という意味です」
芭蕉「柳の葉だけでなく、植物は天の恵みなのかもしれんのう・・・」
北肢「よみ捨てご免の句です」
芭蕉「いやいや、どうして・・・」
二人は松岡の天龍寺に向けて出発した。
2008.6.8