名句小劇場「月清しの句」
芭蕉と等才(筆者)は、太陰暦8月14日(太陽暦9月24日)の夕方、敦賀の港に着き、出雲屋という旅宿に泊まった。その夜「気比(けひ)神宮」へ参拝に行った。ここは第十四代仲哀(ちゅうあい)天皇を祀っている。社の前には白砂が敷かれており、その上に月がこうこうと照っていた。
その昔、他阿(たあ)上人が毒龍の害を取り除き、自ら草を刈り、土や砂、石を運んできたり、泥水を取り除いたりしたので、参詣する人が安心して通過できるようになったと伝えられている。このことを伝える行事が今も続いており、代々の遊行上人が白砂を運んでくるのであるが、これを「遊行の砂持ち」というのだそうである。
その話を聞いて芭蕉は一句詠むことにした。空には満月ではないが、くっきりと美しく月が出ていた。
月清し遊行のもてる砂の上 芭蕉
等才「この句は、『遊行上人が運んでくださったこの神社の砂の上に、清らかな月がこうこうと輝いていますよ』という意味でしょうか」
芭蕉「そうじゃ。奉納の一句であるということじゃ」
等才「『月清し』の季語がきいているように感じます。なかなかできない言い回しですね」
芭蕉「等才殿も一句奉納してはどうじゃな」
等才「芭蕉様のような句は詠めませんが、それでは一句・・・」
砂の上や遊行上人月明り 等才
等才「これは、『月明りに照らされている神社の白砂の上に、上人様が今も立っておられるようだ』という意味です」
芭蕉「月が輝き、白砂も月明りで光り、上人様が神々しく感じられるようじゃ」
等才「そういっていただけると有り難いかぎりです」
といって等才は皺だらけの顔で微笑んだ。
夜も更けてきたので、二人は宿屋に戻った。
等才「明日は十五夜の満月ですね。楽しみですよ」
宿の主人「北陸地方の天候は変わりやすいので、明日のことは何ともいえませんね。それほど期待なさらない方がいいかも知れません」
芭蕉「明日のことは明日じゃな。さて、酒でも飲んで寝ることにしよう」
二人は暫く酒を酌み交わし、ぐっすりとその夜は眠った。
2008.6.10