名句小劇場「月の山の句」

太陰暦6月6日(太陽暦7月23日)  月山(標高1980メートル)に登る。  天候晴

芭蕉と楚良(筆者)は、修験者の服装をまとい、月山に途中で何度か休みながら登った。
楚良「羽黒山よりも、遙かに月山に登るはきついですね。やめても良かったかも知れませんな・・・」
顔から流れ出る汗を手ぬぐいで拭きつついった。
芭蕉「何を情けないことをいう。楚良には信心がないのう」
楚良「いえいえ、そんなことはありませんよ。しかし厳しいですな。脚が痛くなってきました。少しここら辺で休みましょう」
芭蕉「そうか、もうすぐ頂上じゃが、空も晴れておるし、ゆっくりと登ってもよいであろう・・・」
楚良「そうですよ。登ってばかりでは句が詠めませんよ」
芭蕉「それもそうじゃな。ここら辺で一句詠むことといたそう」
楚良「はい。詠みましょう。ところで湯殿山はどちらでしょう?」
芭蕉「方角からすると直ぐそばに見えるあれが湯殿山じゃろう」
楚良「なかなか素晴らしい景色ですな。いい句ができそうですよ」
二人は眺めのよい場所に座って句を書いた。
楚良「できました。どうでしょう。師匠」

湯殿山月山並び雲の峰     楚良

芭蕉「この句は事実を列挙したに過ぎない句じゃな。どこにお前の感動があるのじゃ。発見があるのじゃ。詠んでみて心がわくわくしたかな」
楚良「そういわれると、わくわくはしませんでした・・・」
芭蕉「そうじゃろう。お前が感動してもいないのにいい句である訳ないではないか」
楚良「たしかに・・・。では次の一句は如何です」

月山や大きな月が右肩に     楚良

楚良「どうです。大きい句でしょう」
と少し自信ありげにいった。
芭蕉「さっきの句よりはましじゃな。月で秋の句ということかな?」
楚良「今は夏ですが、季節はかまいませぬ」
芭蕉「旅の句である以上、その時期を無視することは敵わぬであろう」
そういうと芭蕉は一句書き出した。

雲の峰幾つ崩て月の山     芭蕉

楚良「なかなかの名句ですが、どういう意味が隠されておりますか?」
芭蕉「何も隠してはおらぬ。そのままの意味じゃ。雲の峰がいくつも沸き上がっては崩れていく。そういう中で、月山は昔のままの姿でその場所に立っている、ということじゃ」
楚良「なるほど、名山月山の姿がくっきりと見えてますね」
芭蕉「そういうことになろうか。雲の峰も大きいであろう。その変化の繰り返しで月山の姿をさらに大きく見せているのじゃ」
楚良「実に見事な技巧ですね」
芭蕉「技巧ではない。素直な心の顕れだな」
楚良「なるほど、句は、蕉風は、実に奥が深いですね」
芭蕉「そんなこともあるまい。さて、脚の疲れも少しはとれたであろう。登ろうぞ」
楚良「はい、登りましょう」
芭蕉を先頭にして、二人は再び登り始めた。頂上で一泊して湯殿山に向かうことになった。

                                           2008.5.20