良寛様全歌集 旋頭歌の部


番号

旋頭歌の部(吉野秀雄「良寛歌集」参考)

1146

春といへば天つみ空は霞みそめけり山の端に残れる雪も花とこそ見め

1147

この宮の宮のみ阪にわが立てばひさがたのみ雪降りけり巌樫が上に

1148

あづさゆみ春の野にでて若菜つめどもさすたけの君と摘まねば籠に満たなくに

1149

あづさゆみ春野に出でて若菜つめどもさすたけの君し在さねばたのしくもなし

1150

やまかげの杉の板屋に雨も降り来ねさすたけの君がしばしと立ちとまるべく

1151

春くれば木木のこずゑに花は咲けどももみぢばのすぎにし子らは帰らざりけり

1152

わが宿の葉びろばせうを見に来ませ秋風に破れば惜しけむ葉びろの芭蕉

1153

山かげのすぎの板屋に雨も降り来ねさすたけの君がしばしと立ちどまる  

1154

秋のぬの千草おしなみゆくは誰が子ぞ白露に赤裳の裾の濡れまくもをし

1155

さすたけの君と語りし秋のゆふべはあらたまの年は経れども忘られなくに

1156

あしひきの西の山べに関もあらぬかもぬばたまの今宵の月をとどめてあらむ

1157

墨染のわが衣手のひろくありせばあしひきの山のもみぢ葉おほはましものを

1158

やまたづの向ひの岡にさを鹿立てりかみな月時雨の雨に濡れつつ立てり

1159

岩室の田中に立てる一つ松の木今朝見れば時雨の雨に濡れつつ立てり

1160

しらゆきはいく重もつもれ積らねばとてたまぼこの道ふみわけて君が来なくに

1161

やまかげのまきの板屋に音はせねどもひさがたの雪の降る夜は空にしるけれ

1162

この里に行き来の人はさはにあれどもさすたけの君しまさねばさびしかりけり

1163

墨染のわが衣手のひろくありせば世の中の貧しき人をおほはましものを

1164

くさのへに螢となりてちとせをもまたむ妹が手ゆ黄金の水をたまふといはば

1165

ぬばたまの夜はすがらに糞まり明かしあからひく昼は厠に走りあへなくに

1166

しほのりの坂はこの頃墾りにけりてふあづさゆみ春になりなば越えて来よ君

1167

常磐木のときはかきはに君がほぎつるとよみきにその豊御酒にわれ酔ひにけり

1168

こよろぎの磯のたよりにわがひさに欲りしたまだれのをすの小瓶をあひ得てしかも