番
号
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秀
歌
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雑の部短歌(吉野秀雄「良寛歌集」参考)
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637
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○ |
ふるさとへ行く人あらば言(こと)づてむ今日近江路をわれは越えにきと
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638
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浜風も心して吹けちはやふる神の社に宿りせし夜は
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639
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思ひきや道の芝草折りしきてこよひも同じ仮寝せむとは
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640
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○ |
紀の国の高野のおくの古寺に杉のしづくを聞きあかしつつ
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641
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こと更に深くな入りそ嵯峨の山たづねていなむ道の知れなくに
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642
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たかさごの峰上の鐘の声きけばけふのひと日は暮れにけるかも
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643
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旅衣野山をこえて足たゆく今日のひと日も暮れにけるかな
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644
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草枕夜毎にかはるやどりにも結ぶはおなじ古里のゆめ
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645
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津の国のなにはのことはいさ知らず木下宿に三人臥しけり
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646
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富士も見え筑波も見えて隅田川せぜの言の葉たづねても見む
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647
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言の葉もいかが書くべき雲霞晴れぬる今日の富士の高根に
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648
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都鳥隅田川原に汝住みてをちこち人に名や問はるらむ
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649
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よしや君いかなる旅の末にても忘れ給ふな人の情けを
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650
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ももつたふいかにしてまし草枕旅のいほりにあひし子らはも
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651
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夢の世にまた夢むすぶくさまくら寝覚めさびしくものおもふかな
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652
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○ |
福井なる矢たれの橋に来てみれば雨は降れれど日は照れれども
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653
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ゆくさくさ見れども飽かず石瀬なる田中に立てる一つ松かな
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654
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ゆくさくさ見れども飽かぬ岩室の田中に立てる一つ松あはれ
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655
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○ |
岩室の田中の松は待ちぬらしわれ待ちぬらし田中の松は
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656
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山かげの有磯の浪の立ちかへり見れども飽かぬ一つ松かも
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657
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松之尾の松の間を思ふどち歩きしことは今も忘れず
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658
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よろづよに仕へまつらむいやひこの杉の下道いゆきかへらひ
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659
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伊夜日子の杉のかげ道ふみわけてわれ来にけらしその蔭道を
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660
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○ |
八幡の森の木下に子供らと遊ぶ夕日の暮れ間惜しかな
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661
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籠田より村田の森を見渡せば幾代経ぬらむ神さびにけり
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662
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みはやしはいづくはあれど越路なる三島の里の出田(いづるた)の宮
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663
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○ |
木の間より角田の沖を見わたせば海士の焚く火の見えかくれつつ
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664
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浦浪の寄するなぎさを見わたせば末は雲居につづく海原
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665
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つれづれにながめくらしぬ古寺の軒ばをつたふ雨をききつつ
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666
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弥彦のを峯うち超すつづらをり十九や二十を限りとはして
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667
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ますらをや共泣きせじと思へどもけぶり見る時むせかへりつつ
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668
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もみぢ葉の先を争ふ世の中に何を憂しとて袖ぬらすらむ
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669
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十日余りいつかは来むと平坂を超ゆらむ子らが音づれもなし
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670
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おのが子ををしと思はばみたからをうちにはふらさずいつくしみませ
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671
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老い人は心よわきものぞみ心をなぐさめたまへ朝な夕なに
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672
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ひぐらしの鳴く夕方はわかれにし子のことのみぞ思ひ出でぬる
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673
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天雲のよそに見しさへかなしきにをしたらはせし父のみこはも
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674
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かからむとかねて知りせばたまほこの道ゆき皮脂に言伝てましを
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675
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この暮のうらがなしきに草枕旅のいほりに果てし君はも
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676
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子をもたぬ身こそなかなかうれしけれうつせみの世の人にくらべて
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677
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かいなでて負ひてひたして乳ふふめて今日は枯野におくるなりけり
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678
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み子のためにいとなるのりはしかすがにうき世の民に及ぶなりけり
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679
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ますかがみ手にとり持ちて今日の日もながめ暮らしつ影と姿と
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680
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わがごとやはかなきものはまたあらじと思へばいとどはかなかりけり
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681
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○ |
何ごともみな昔とぞなりにける花に涙をそそぐ今日かも
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682
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あづさゆみ春を春ともおもほえずすぎにし子らがことを思へば
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683
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人の子の遊ぶをみればにはたづみ流るる涙とどめかねつも
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684
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もの思ひすべなき時はうち出でて吉野に生ふるなづなをぞ摘む
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685
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いつまでか何嘆くらむなげけどもつきせぬものを心まどひに
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686
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子を思ひ思ふ心のままならばその子に何の罪をおほせむ
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687
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子を思ひすべなき時はおのが身をつみてこらせどなほやまずなり
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688
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あらたまの年はふれども面影のなほ目の前に見ゆる心か
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689
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今よりは思ふまじとは思へども思ひ出してはかこちぬるかな
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690
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思ふまじ思ふまじとは思へども思ひ出しては袖しぼるなり
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691
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こぞの春折りて見せつる梅の花今は手向けとなりにけるかも
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692
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からごろも立ちても居てもすべぞなきあまの刈藻の思ひみだれて
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693
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世の中の玉も黄金も何かせむ一人ある子に別れぬる身は
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694
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かしのみの唯一人子に捨てられてわが身ばかりとなりにしものを
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695
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思ふぞへあへずわが身のまかりなば死出の山路にけだし逢はむかも
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696
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なげけどもかひなきものを懲りもせでまたも涙のせき来るはなぞ
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697
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子供らを生まぬ先とは思へども思ふ心はしばしなりけり
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698
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花見てもいとど心は慰まずすぎにし子らがことを思ひて
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699
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朝戸出て子らがためにと折る花は露も涙もおきぞまされる
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700
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煙だに天つみ空に消えはてて面影のみぞ形見ならまし
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701
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なげくとも帰らぬものをうつせみは常なきものと思ほせよ君
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702
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御仏の信誓ひのごとあらばかりのうき世を何願ふらむ
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703
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知る知らぬいざなひたまへ御仏の法の蓮の花の台(うてな)に
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704
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水の上に数かくよりもはかなきはおのが心を頼むなりけり
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705
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今更にことの八千度くやしきは別れし日より訪はぬなりけり
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706
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何ごともみな昔とぞなりにける涙ばかりや形見ならまし
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707
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さむしろに衣片敷き夜もすがら君と月見しこともありしか
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708
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野べに来て古枝を折ることはいま来む秋の花のためこそ
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709
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○ |
この里の往き来の人はあまたあれど君しなければさびしかりけり
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710
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君なくてさびしかりけりこの頃はゆききの人はさはにあれども
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711
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おもほえずまたひの庵に来にけらしありし昔の心ならひに
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712
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忘れてはおどろかりけりもみぢ葉の先を争ふ世とは知りつつ
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713
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秋の川や立田の山のもみぢ葉の散るとし聞けば風ぞ身にしむ
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714
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残りなく散りゆくものをもみぢ葉の色づかぬ間を頼むばかりぞ
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715
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山風は時し知らねどもみぢ葉の色づかぬ間を何かたのまむ
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716
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いと早く散れる紅葉におどろきてわが身の秋は思はざりけり
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717
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遅し疾し何かわかたむうつせみのありてなき世と思ひ知らずや
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718
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ありてなき世とは知るともうつせみの生きとしものは死ぬるなりけり
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719
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秋のゆふべ虫の音ききに僧ひとり遠方里は霧にうづまる
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720
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たむけむと書きなすことのいとよわみあはれなりけり昔思へば
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721
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をりをりはみ山のねぐらこひぬべしわれも昔の思ほゆらくに
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722
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餌やとぼし妻やこひしき水鳥の鳴く声きけば我もかなしも
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723
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もみぢ葉の過ぎにし子らがこと思へば欲りするものは世の中になし
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724
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いかなるやことのあればか吾妹子があまたの子らをおきて去にける
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725
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語らずにあるべきものをことごとに人の子ゆゑにぬるる袖かな
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726
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今日もまた君まさばやと思ふかな立ちかへるべき昔ならねど
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727
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月花は昔ながらも君在さでおうなの心かこちこそすれ
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728
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亡き魂の帰りやすると真木の戸も閉さでながむる暁の空
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729
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なき折は何をよすがに思はましあるにならひし今日の心は
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730
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手を折りて昔の友を数ふればなきは多くぞなりにけるかな
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731
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および折りうち数ふれば亡き人の数へがたくもなりにけるかな
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732
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○ |
また来むといひて別れし君ゆゑに今日もほとほと思ひ暮らしつ
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733
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鳥部野の煙絶えねばうつせみのわが身おぼえてあはれなりけり
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734
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千代かけてたのみし人もあだし野の草葉の露となりにけらずや
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735
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幾とせかたのみし人もあだし野の草葉の露となりにけるかな
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736
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ふる里をはるばるここに武蔵野の草葉の露と消ぬる子らも
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737
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露と見しうき世を旅のままならばわが家も草の枕ならまし
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738
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彼れ是となにあげつらふ世の中は一つの玉の影と知らずて
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739
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今更に死なば死なめと思へども心に添はぬ命なりけり
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740
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世の中は何にたとへむぬばたまの墨絵にかけるを野の白雪
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741
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世の中は何にたとへむ山彦のこたふる声の空しきがごと
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742
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○ |
世の中は何にたとへむ弥彦にたゆたふ雲の風のまにまに
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743
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世の中は越の浦曲に生ふる藻のかにもかくに波のまにまに
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744
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いめの世にまぼろしの身を置きながらいづくの国へ家出しつらむ
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745
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ぬばたまの夢のうき世にながらへてたとひ心にかなひたりとも
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746
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あれありと頼む人こそはかなけれ夢のうき世にまぼろしの身を
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747
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もろびとのかこつ思ひを寒きとめておのれひとりに知らしめむとか
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748
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ながらへむことぞ願ひしかくばかり変り果てぬる世とは知らずて
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749
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むな木にもなるべくなりぬ柏の木うべわが年の老いにけるかな
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750
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白雲をよそにのみみてすぐせしがまさにわが身につもりぬるかも
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751
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◎ |
老が身のあはれを誰に語らまし杖を忘れて帰る夕暮
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752
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み山木も花咲くことのありといふを年経ぬる身ぞはかなかりける
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753
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百草の花の盛りはあるらめど下くだちゆくわれぞともしき
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754
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あらたまの年やつみけむしのぶ草宿には早くおひにしものを
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755
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しをりしてゆく道なれど老いぬればこれやこの世のなごりなるらむ
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756
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老いぬればまことをぢくなくなりにけり我さへにこそおどろかれぬれ
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757
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老いらくを誰がはじめけむ教へてよいざなひ行きてうらみましものを
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758
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惜しめどもさかりはすぎぬ待たなくに尋めくるものは老にぞありける
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759
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いとはねばいつか盛りは過ぎにけり待たぬに来るは老にぞありける
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760
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ちはやぶるいづれの神を祈りなばけだしや老をはらはさむかも
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761
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をつつにも夢にも人の待たなくに訪ひ来るものは老にぞありける
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762
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昔より常世の国はありと聞けど道を知らねば行くよしもなし
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763
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老いもせず死にせず国はありと聞けどたづねて往なむ道の知らなく
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764
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しげ山にわれ杣たてむ老いらくの来むてふ道に関据ゑむため
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765
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老の来る道のくまぐま標結へばいきうしといひてけだし帰らむ
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766
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たまほこの道のくまぐましめゆはば行きし月日のけだしかへらむかも
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767
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白雪は降ればかつ消ぬしかはあれど頭にふれば消えずぞありける
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768
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白髪はおほやけものぞかしこしや人の頭も避くといはなくに
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769
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世にみつる宝といへど白髪にあに及ばめや千千の一つも
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770
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しらかみはよみの尊のつかひかもおほにな思ひそその白髪を
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771
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あづさゆみ春はたてども消ぬものはかしらにつもる雪にぞありける
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772
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しらかみと雪はいづれとわかねども春日の照れる時にぞしるかる
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773
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年月のさそひて去なば如何ばかりうれしからましその老いらくを
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774
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わが宿を箱根の関と思へばや年月は往く老いらくは来る
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775
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年月はいきかもするに老いらくの来ればいかずに何つもるらむ
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776
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行く水は寒きとむこともあるらめどかへらぬものは月日なりけり
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777
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行く水はせきとどめてもありぬべし往きし月日のまたかへるとは
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778
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行く水はせけばとまるを紅葉ばの月日のまたかへるとは
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779
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いにしへの書にも見えず今日の日のふたたびかへるならひありとは
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780
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ひさかたの雲のあなたに関すゑば月日のゆくをけだし止めむかも
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781
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ねもごろのものにもあるか年月は賤が伏屋も尋めて来にけり
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782
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うたてしきものにもあるか年月は山の奥まで尋めて来にけり
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783
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はじめより常なき世とは知りながら何ぞわが袖のかわくことなき
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784
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あらまたの長き月日をいかにして明かし暮らさむ麻手小ぶすま
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785
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ひさかたの長き月日をいかにしてわが世わたらむ麻手こぶすま
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786
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明日あらば今日もやかくと思ふらむ昨日の暮ぞ昔なりける
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787
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今日の日をいかに消たなむうつせみのうき世の人のいたまくもをし
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788
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なよたけのはしたなる身はなほざりにいざ暮らさましひと日ひと日に
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789
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ゆくりなくひと日ひと日を送りつつ六十路あまりになりにけらしも
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790
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思へ君こころなぐさむ月花も積もれば人の老となるもの
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791
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うちつけに死なば死なずてながらへてかかる憂き目を見るがわびしさ
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792
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幾秋の霜やおきけむ麻衣朽ちこそまされ問ふ人なしに
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793
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わが袖はしとどにぬれぬうつせみの憂き世の中のことを思ふに
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794
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わが袖は涙に朽ちぬ小夜更けてうき世の中のことを思ふに
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795
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世の中の憂さを思へばうつせみのわが身の上の憂さはものかは
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796
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かにかくにかわかぬものは涙なり人の見る目をしのぶばかりに
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797
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うつせみの人の憂けくを聞けば憂しわれもさすがに岩木ならねば
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798
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あだし名はなくてもがな花がたみとてもうき世の数ならぬ身は
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799
|
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木にもあらず草にもあらずなよ竹のかずならぬ身ぞわれは恋しき
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800
|
|
長崎の鳥の鳴かぬ日はあれども袖のぬれぬ日ぞなき
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801
|
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世をいとふ墨の衣のせばければつつみかねたり賤が身をさへ
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802
|
|
墨染のわが衣手のゆたならばうき世の民を蔽はましものを
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803
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何故に家を出でしと折りふしは心に愧ぢよ墨染の袖
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804
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捨てし身をいかにと問はばひさかたの雨ふらば降れ風ふかば吹け
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805
|
|
身をすてて世をすくふ人も在すものを草の庵にひまもとむとは
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806
|
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世の中に門さしたりと見ゆれどもなどか思ひの絶ゆることなき
|
807
|
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うきことのなほこの上に積れかし世を捨てし身にためしてやみむ
|
808
|
|
くれたけの世はうき節の多きかなわが身許りの上ならなくに
|
809
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|
世の中にあらむかたなみさわげばや心うきくさ寄辺さだめぬ
|
810
|
|
世の中はすべなきものと今ぞ知るそむけばなどしそむかねば憂し
|
811
|
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しかりとてそむかれなくに事しあればまづ嘆かるるあな憂世の中
|
812
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よみたててわきてそれとはなけれども常に尽きせぬものにぞありける
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813
|
|
おほにおもふ心を今ゆ打捨ててをろがみまをす月に日にけに
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814
|
|
かくあらむとかねて知りせばなほざりに人に心は許すまじものを
|
815
|
|
そこにとふる氷は融くれどもうつせみの人の心の何どとけがたき
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816
|
|
うちつけにうらやましくぞなりにける峰の松風岩間の滝津
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817
|
|
越の海人をみるめは尽きなくにまた帰り来むと言ひし君はも
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818
|
|
春は花秋は千草に戯れなむよしや里人こちたかりとも
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819
|
|
事足らぬ身とは思はじ柴の戸に月もありけり花もありけり
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820
|
|
わが庵はおく山なればなかなかに月もあはれに花ももみぢも
|
821
|
|
夕顔も糸瓜も知らぬ世の中はただ世の中にまかせたらなむ
|
822
|
|
難波江のよしあし知らぬ身にぞあれば阿吽の二字はありときけども
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823
|
|
やみ路より闇路に通ふわれなれば月の名をさへ聞きわかぬなり
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824
|
|
和泉なる信田が森の蔦の葉の岩のはさまに朽ち果てぬべし
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825
|
|
おく山の草木のむたに朽ちぬとも捨てしこの身をまたや腐さむ
|
826
|
|
いつまでも朽ちやせなましみ仏の御法のために捨てしその身は
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827
|
|
あらがねの土の中なる埋もれ木の人にも知らでくち果つるかも
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828
|
|
いにしへにありけむ人もわが如やものの悲しき世を思ふとて
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829
|
|
世の中におなじ心の人もがな草のいほりに一夜語らむ
|
830
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|
同じくはあらぬ世までも共にせむ日は限りあり事は尽きせじ
|
831
|
|
知る知らぬゆくもかへるも諸共にわが古里へ行くといはまし
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832
|
|
夕光の花より君が色ふかき言葉を神もうれしとや見む
|
833
|
◎ |
世の中にまじらぬとにはあらねどもひとり遊びぞわれはまされる
|
834
|
|
草の庵何とがむらむちがやばし惜しむにあらず花をも枝も
|
835
|
|
すがのねのねもころごろに奥山の竹のいほりに老いやしぬらむ
|
836
|
|
あしひきのみ山を出でてうつせみの人の裏屋に住むとこそすれ
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837
|
|
しかれとてすべのなければ今更に慣れぬよすがに日を送りつつ
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838
|
|
うつせみの人の裏屋をかりの庵夜の嵐に聞くぞまさらむ
|
839
|
|
苫ぶきのひまをもわくる夜半の雨ひとりや君が明かしかぬらむ
|
840
|
|
世の中をいとひ果つとはなけれどもなれしよすがに日を送りつつ
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841
|
○ |
やまかげの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも
|
842
|
|
山かげの岩根もり来る苔水のあるかなきかに世をわたるかも
|
843
|
|
言の葉の花に涙をそそぐなり世すべなみ身の何しらずとも
|
844
|
○ |
国上山岩の苔路ふみならしいくたびわれはまゐりけらしも
|
845
|
|
濁る世を澄めともよはずわがなりにすまして見する谷川の水
|
846
|
|
うき世をば高くのがれて国上山あかたに川の水をしるべに
|
847
|
|
国上山杉の下道ふみわけてわが住む庵にいざかへりてむ
|
848
|
|
いざここにわが身は老いむあしひきの国上の山の松の下いほ
|
849
|
|
あしひきの国上の山をもし問はば心におもへ白雲の外
|
850
|
|
恋しくばたづねて来ませあしひきの国上の山の森の下いほ
|
851
|
○ |
わが宿は越の山奥こひしくばたづねて来ませ杉の下道
|
852
|
|
こひしくばたづねて来ませわが宿は越の山もとたどりたどりに
|
853
|
|
わが宿は国上山もとこひしくばたづねて来ませたどりたどりに
|
854
|
|
乙宮の森の下屋の静けさにしばしとてわが杖うつしけり
|
855
|
|
いざここにわが世は経なむ国上のや乙子の宮の森の下庵
|
856
|
|
おと宮の宮の神杉しめゆひていつきまつらむをぢなけれども
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857
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乙みやの森の下庵訪ふ人はめづらしものよ森の下庵
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858
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乙宮の森の木下にわが居れば鐸ゆらぐもよ人来るらし
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859
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乙宮の森の下屋にわれ居れば人来るらし鐸の音すも
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860
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乙宮の森の下いほしばしとて占めにしものを森の下庵
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861
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この殿の巌橿がもと橿がもとわれはしめけりそのかしがもと
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862
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わが宿の竹の林をうちこして吹き来る風の音のきよさよ
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863
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わが宿の竹の林は日に千度行きて見れどもあきたらなくに
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864
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草の庵に立ちても居てもすべぞなきこのごろ君が見えぬ思へば
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865
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老の身の老のよすがを訪ふとなづさひけらしその山道を
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866
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山住みのあはれを誰に語らましまれにも人の来ても訪はねば
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867
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わびぬれど心は澄めり草の庵その日その日を送るばかりに
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868
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とぶ鳥も通はぬ山のおくにさへ住めば住まるるものにぞありける
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869
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あしひきの山たちかくす白雲は浮世をへだつ関にてこそあれ
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870
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あしひきのわが住む山は近けれど心はとほく思ほゆるかな
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871
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あしひきの山田の田居にわれをればきのふも今日も訪ふ人はなし
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872
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○ |
いざさらばわれよりもこれより帰らましただ白雲のあるに任せて
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873
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滝つ瀬の音きくばかり庵占めてうき世の白雲に世を送りてむ
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874
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たきつせの音きくばかり庵しめて世を白雲に送りてむかも
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875
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逢坂の関のこなたにあらねども往き来の人のあこがれにけり
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876
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庵にのみわれはありぬと君により言伝をせむわたなかのをち
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877
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雨はやみぬこの夜明けなば木下のや岩の苔道うちはらひてむ
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878
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たまほこの道の下草ふみわけてまたと来てみむたどりたどりに
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879
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里べには笛や太鼓の音すなり深山はさはに松の音しつ
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880
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夜あくれば森の下いほ鳥なく今日も浮世の人の数かも
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881
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大殿の林のもとに庵しぬ何かこの世に思ひ残さぬ
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882
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大とのの森の下庵夜明くれば鳥なくなり朝ぎよめせむ
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883
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○ |
月夜にはいも寝ざりけり大殿の林のもとにゆきかへりつつ
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884
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おほとのの森の木したをきよめつつ昨日も今日も暮らしつるかも
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885
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山かげのありその浪のたちかへり見れども飽かぬこれのみ林
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886
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えにしあらばまたも住みなむ大殿の森の下庵いたく荒すな
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887
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いくたびか草の庵をうち出でてあまつみ空を眺めつるかも
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888
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山かげの木の下庵に宿かりて語り果てねば空ぞ更けにける
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889
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草のいほに立ちゐてみてもすべぞなきあまの刈藻の思ひみだれて
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890
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ありそみの上に朝ごと立つ市のいよいよ行けばいよいよ消にけり
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891
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しぶ柿は二つなければみ仏の悲仏のみこゑなしとてもそれ
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892
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君ませば月日なけれどひさかたの天のみ殿もあらはれぞする
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893
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ゆきゆきて宝の山に入りぬれば仮の宿りぞ棲処なりける
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894
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心をば松にちぎりて千とせまで色も変らであらましものを
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895
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あしたには後の山に薪こり夕べは軒の流れをぞ汲む
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896
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わたしにし身にしありせば今よりはかにもかくにも弥陀のまにまに
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897
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わかれにし心の闇に迷ふらしいづれか阿字の君がふるさと
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898
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手にさはるものこそなけれ法の道それがさながらそれにありせば
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899
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法の道まことわかたむ西東行くもかへるも波にまかせて
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900
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◎ |
あわ雪の中に顕ちたる三千大千世界(みちおほち)またその中に沫雪ぞ降る
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901
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いく度かまゐる心はかつを寺ほとけの誓ひのたのもしきかな
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902
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おろかなる身こそなかなかうれしけれ弥陀の誓ひにあふと思へば
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903
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かにかくにものな思ひそ弥陀仏のもとの誓ひのあるにまかせて
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904
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わがのちをたすけたまへとたのむ身はもとの誓ひのすがたなりけり
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905
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やちまたにものな思ひそみだ仏の本の誓ひのあるをしるべに
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906
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不可思議の弥陀の誓ひのなかりせば何をこの世の思ひ出にせむ
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907
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み仏のまこと誓ひの弘くあらばいざなひ給へをぢなきわれを
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908
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み仏のまこと誓ひの弘からばいざなひ給へ常世の国に
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909
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○ |
我ながら嬉しくもあるか弥陀仏のいますみ国に行くと思へば
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910
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くれたけの直き姿は偽りの多かる世にもさはらざりけり
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911
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他力とは野中に立てし竹なれやよりさはらぬを他力とぞいふ
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912
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草の庵に寝てもさめても申すこと南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏
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913
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出づる息また入る息は世の中の尽きせぬことのためしとぞ知れ
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914
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今よりは何を頼まむ方もなし教へてたまへ後の夜のこと
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915
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如何なるが苦しきものと問ふならば人をへだつる心と答へよ
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916
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世の中のほだしを何と人問はばたづねきはめぬ心とこたへよ
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917
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世の中に何が苦しと人とはば御法を知らぬ人と答へよ
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918
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○ |
水の上に数かくよりもはかなきはみ法をはかる人にぞありける
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919
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妙なるや御法の言に及ばねばもて来て説かむ山のくちなし
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920
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極楽にわが父母はおはすらむ今日膝元へ行くと思へば
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921
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法の道まことは見えできのふの日も今日も空しく暮らしつるかな
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922
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法の塵にけがれぬ人はありときけどまさ目に一目見しことはあらず
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923
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心もよ言葉も遠くとどかねばしなく御名を唱へこそすれ
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924
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ただたのむ三界六道の田長来てみつせの川に鳴きわたるかな
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925
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比丘の唯万事はいらず常不軽菩薩の行ぞ殊勝なりける
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926
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僧の身は万事はいらず行不菩薩の法ぞ殊勝なりける
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927
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業はただ万事はいらず浄不浄菩薩の行ぞ殊勝なりける
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928
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み草刈り国へだつとも同じ世と思ふ心を君たのみなば
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929
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霊山の釈迦のみ前に契りてしことな忘れそ世はへだつとも
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930
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○ |
尊しや祇園精舎の鐘の声諸行無常の夢ぞさめける
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931
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墨染のわが衣手はぬれぬとも法の道芝ふみわけてみむ
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932
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墨染のわが衣手はぬれぬとも杉のかげ道ふみわけてみむ
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933
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忘れても人ななやめそ猿よりも汝もむくいはありなむものを
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934
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いかにして人をそだてむ法のためこぼす涙はわがおとすなくに
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935
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○ |
夕ぐれの岡の松の木人ならば昔のことも問はましものを
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936
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夕ぐれの岡にのこれる言の葉の跡なつかしや松風ぞ吹く
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937
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いつとてもよからぬとにはあらねども飲みてののちはあやしかりけり
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938
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かきてたべつさいてたべわりてたべてさてその後は口も放たず
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939
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○ |
くれなゐの七の宝を諸手しておし戴きぬ人のたまもの
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940
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鳥と思ひてなうちたまひそみ園生の海棠の実を食みに来つれば
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941
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今日もまた海棠の実を食みに来ぬいかくれ給へわがかへるまで
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942
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讃岐のや伊予の国なる土佐が絵をうつしてぞ見るこれの御園は
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943
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わが宿は竹の柱に菰すだれ強ひて食しませひとつきの酒
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944
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○ |
さすたけの君がすすむるうま酒にわれ酔ひにけりそのうま酒に
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945
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さすたけの君がすすむるうま酒を更にや飲まむその立ち酒を
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946
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よしあしの難波のことはさもあらばあれ共に尽さむひとつきの酒
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947
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うま酒にさかなもて来よいつもいつも草の庵に宿はかさまし
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948
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大御酒を三杯五つきたべ酔ひぬゑひての後は待たでつぎける
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949
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漢詩をつくれつくれと君はいへど君し飲まねば出来ずぞありける
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950
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明日よりの後のよすがはいさ知らず今日のひと日は酔ひにけらしも
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951
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うまざけを飲みくらしけりはらからの眉白たへに雪の降るまで
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952
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草のいほりにひとり住みぬるきみもとはばさこそしづけきけふと思へば
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953
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くりの落つひにもぞ君はきますなるさこそ我は思へけだしいかがあらむ
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954
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なみなみのわが身ならねばすべをなみたまさかに来し君をかへせし
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955
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うち延へてただ一すぢの古道を踏まむふまじは君がまにまに
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956
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浮雲のいづくを宿とさだめねば風のまにまに日を送りつつ
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957
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うき雲の外つこともなき身にしあれば風の心に任すべらなり
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958
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なほざりに外に出て見れば日はくれぬまたたちかへる君が館に
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959
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たれ人かささへやすらむたまほこの道忘れてか君が来まさぬ
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960
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はなかつみ数にもあらぬ賤が身を永くもがなもと祈る君はも
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961
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われも思ふ君もしかいふこの庭に立てる槻の木いと古りにけり
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962
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心あらば草の庵にとまりませ苔の衣のいとせまくとも
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963
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雨晴れに掌の裾ぬれて来し君を一夜ここにといはばいかがあらむ
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964
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|
山里のさびしくなくばことさらに来ませる君に何をあへまし
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965
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山里の冬のさびしさなかりせば何をか君があへ草にせむ
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966
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今二日三日もたちなばさすたけの君がみ足もよくなほらまし
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967
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くすりしのいふもきかずにかへらくの道は岩みち足のいたまむ
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968
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こよひあひ明日は山路をへだてなばひとりや住まむもとの庵に
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969
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あしひきの岩松が根にうたげして語りし折をいつか忘れむ
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970
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間瀬の浦のあまのかるものよりよりに君も訪ひ来よ我も待ちなむ
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971
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この海ののぞみの浦の雪海苔しかけてしぬばぬ月も日もなし
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972
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○ |
越の海のぞみの浦の海苔を得ばわけて給はれ今ならずとも
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973
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|
越の海沖つ波間をなづみつつ摘みにしのりしいつも忘れず
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974
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世の中は変りゆけどもさすたけの君が心はかはらざりけり
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975
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あらたまの年は経れどもさすたけの君が心は忘られなくに
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976
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あらたまの年は経ぬともさすたけの君が心をわが忘れめや
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977
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水茎の跡もなみだにかすみけりありし昔のことを思へば
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978
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◎ |
たらちねの母がかたみと朝夕に佐渡の島べをうち見つるかも
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979
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◎ |
いにしへにかはらぬものはありそみとむかひに見ゆる佐渡の島なり
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980
|
|
天も水もひとつに見ゆる海の上に浮び出でたる佐渡が島山
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981
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沖つ風いたくな吹きそ雲の浦はわがたらちねのおきつきどころ
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982
|
|
世の中のうきもつらきもなさけをもわが子を思ふゆゑにこそ知れ
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983
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から国のかしこき人の親仕へ見れば昔のおもほゆらくに
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984
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|
わが親に花たてまらしよ何花をせせなぎ照らす因果の花
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985
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|
まま親に花たてまらしよ何花をせせなぎ照らす因果の花
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986
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さすたけの君が心の通へばやきその夜ひと夜ゆめにみえけり
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987
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ぬばたまの夜のゆめぢと現とはいづれ勝るとあだくらべせむ
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988
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○ |
世の中に恋しきものは浜辺なるさざえの貝のふたにぞありける
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989
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さすたけの君と相見てかららへばこの世に何か思ひ残さむ
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990
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しほのりの山のあなたに君置きてひとりし寝れば生けりともなし
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991
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君が宿とわが宿わかつ塩法の坂を鍬もてこぼたましものを
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992
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しほのりの坂も恨めしこのたびは近きわたりをへだつとおもへば
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993
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しほのりの坂をかしこみこのたびは大川のへをたうて来にけり
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994
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○ |
しほのりの坂は名のみになりにけり行く人しぬべ万代までに
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995
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しかりとも黙に堪へねば言挙げす勝ちさびをすなわが弟の君
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996
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うかうかとうき世をわたる身にしあればよしや言ふとも人はうきゆめ
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997
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この世さへうからうからとわたる身は来ぬ世のことを何思ふらむ
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998
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おもかげの夢にうつろふかとすればさながら人の世にこそありけれ
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999
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|
ゆめに夢を説くとは誰が言ならむさめたる人のありぬらばこそ
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1000
|
◎ |
形見とて何かのこさむ春は花山ほととぎす秋はもみぢ葉
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1001
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|
露霜の秋のもみぢとほほぎすいつの世にかはわれ忘れめや
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1002
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なきあとの形見ともがな春は花夏ほととぎす秋はもみぢば
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1003
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|
ももなかのいささむら竹いささめにいささか残す水茎のあと
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1004
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|
残しおくこのふる文は末長くわがなきあとの形見ともがな
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1005
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◎ |
良寛に辞世あるかと人問はば南無阿弥陀仏といふと答へよ
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1006
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|
うちつけに飯を絶つとにあらねども且つやすらひて時をし待たむ
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1007
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いくむれか鷺のとまりけり宮の森有明の月はかくれつつ
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1008
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言にいでていへばやすけしくだり腹まことその身はいや堪へがたし
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1009
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|
行くさくさ同じ国路の里人にことづてやせむ雁の玉章
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1010
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重ねてはとあれかくあれこのたびは帰りたまはれもとの里べに
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1011
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今よりは夜毎に人をたのみてむ夢夢もまさしきものにありせば
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1012
|
|
津の国の浪華のことはよしゑやしただに一足すすめもろ人
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1013
|
|
津の国の浪華のことはいさ知らず草のいほりに今日も暮らしつ
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1014
|
|
人の性聞けばわが身を咎めば人はわが身の鏡なりけり
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1015
|
|
うつせみのうつつの心のやまぬかも生れぬさきにわたしにし身を
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1016
|
|
晴れやらぬ峰の薄雲たち去りて後の光と思はずや君
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1017
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いにしへは心のままに従へど今は心よわれにしたがへ
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1018
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今よりはつぎてあはむと思へども別れといへば惜しきものなり
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1019
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|
はらからも残りすくなくなりにけり思へば惜しきけふの別れは
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1020
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|
いにしへにありけむ人のもてりてふ大みうつはわれはもちたり
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1021
|
|
ありきつるみ世の仏のつくらせる大みうつはは見るに尊し
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1022
|
|
うま人のゆくさかへるさ身をさけずもてるうちははこれにあらずや
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1023
|
|
とこしへにつねに保たばけだしくもうまさびせすと人いふらむか
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1024
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|
み仏のしろしめしけむいにしへを今にうつして見るがたふとさ
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1025
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いにしへのますらたけをの形見ぞと見つつしのぼむ年は経るとも
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1026
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|
ここだくも取りみとらずみ見つれどもこのおほみうちはよろしかりけり
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1027
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|
今よりは塵をもすゑじ朝な夕なわが見はやさむいたくな侘びそ
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1028
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|
これのみはうつりゆくともとどめおきて語りもつがめ後の世までも
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1029
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|
このうちはおくりし人は誰びとぞ松の下いほ橘の巣守
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1030
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|
あしひきの西の山びに近き日を招きてかへす人もあらぬか
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1031
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|
あさもよし君が心のまことゆも経はみ寺にかへるなりけり
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1032
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|
かしましとおもてぶせにはいひしかど此頃見ねばさびしかりけり
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1033
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|
寒くなりぬ今は螢も光なしこがねの水を誰かたまはむ
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1034
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草叢の螢とならば宵宵に黄金の水を妹たまうてよ
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1035
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身がやけて夜は螢とほとれども昼は何ともないとこそすれ
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1036
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人の身はならはしものぞことさらによく教へてよねぎらひまして
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1037
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|
人の身はならはしものぞことさらによく教へてよさきくいまして
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1038
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|
教とは誰が名づけけむ白糸の賤がをだまきまきもどしみよ
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1039
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|
形さへ色さへ名さへあやさへにこの世の人とおもはれなくに
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1040
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|
この僧の心を問はば大空の風の便りにつくと答へよ
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1041
|
|
わが心ありやあらずと探りみれば空吹く風の音ばかりなり
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1042
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|
もののふの真弓白弓梓弓張りなばなどかゆるむべしやは
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1043
|
|
もののふの真弓白弓梓弓弛みにしよりその日を知らず
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1044
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年をへても和歌の浦曲にすむ田鶴は君がよはひのためしにぞ見る
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1045
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慣れなれて何を憂へむ葦田鶴ぬみ園に遊ぶ鶴ぬゆゆしき
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1046
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事しあれば事しありとて君は来ず事しなき時はおとづれもなし
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1047
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たがやさん色もはだへも妙なれどだかやさんよりたがやさむには
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1048
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ことしより君がよはひをよみてみむ松の千年をあり数にして
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1049
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何をもて君がよはひをねぎてまし松も千とせの限りありせば
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1050
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いく千代も栄ゆる松にならへばか年はふれども君は老いせぬ
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1051
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いづこへも立ちてを行かむ明日よりは鳥てふ名を人のつくれば
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1052
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いざなひて行かば行かめど人の見てあやしめ見らばいかにしてまし
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1053
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いざさらばわれもやみなむここのまり十づつ十を百と知りなば
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1054
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いざさらばわれは帰らむ君はここにいやすく寝ねよはや明日にせむ
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1055
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沖つ藻のかよりかくよりかくしつつ昨日もくらし今日も暮らしつ
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1056
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さしあたるそのことばかり思へただかへらぬ昔知らぬ行末
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1057
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つきてみよひふみよいむなやここのとを十とをさめてまた始まるを
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1058
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さすたけの君がおくりしにひまりをつきてかぞへてこの日くらしつ
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1059
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あしひきの山の椎柴折り焼きて君と語らむ大和言葉の葉
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1060
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いで言はつきせざりけりあしひきの山のしひしば折り尽すとも
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1061
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君や忘る道やかくるるこの頃は待てど暮らせど音づれもなき
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1062
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君や忘る道や葎のしげるかなこの頃さらにおとづれのなき
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1063
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くさぐさのあや織りいだす四十八文字声とひびきとたてぬきにして
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1064
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かりそめのこととおもひそこの言葉ことの葉のみとおもほゆな君
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1065
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かりそめのこととなききそ唐衣今朝立ちながらいひしことの葉
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1066
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心さへ変らざりせばはふつたの絶えず向はむ千代も八千代も
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1067
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夢の世にかつまどろみてゆめをまた語るもゆめもそれがまにまに
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1068
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いついつと待ちにし人は来りけり今はあひ見て何か思はむ
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1069
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武蔵野の草葉の露のながらへてながらへはつる身にしあらねば
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1070
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くるに似てかへるに似たり沖つ波(貞心尼)あきらかりけり君が言の葉(良寛)
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1071
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水もゆかず月も来らずしかはあれど波間に浮ぶ影の清さよ
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1072
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わがためにあさりし鮒をいなだきておとしもつけず食しにけるかも
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1073
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しろしめす民があしくばわれからと身をとがめてよ民があしくば
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1074
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遠近の県司に物申すもとの心をゆめわすらすな
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1075
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うちわたすつかさつかさにもの申すもとの心をわすらすなゆめ
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いくそばくぞうづのみ手もて大神のにぎりましけむ珍のみ手もて
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かくばかり憂き世と知らばおく山の草にも木にもならましものを
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君や忘る道や葎のしげるかなこの頃さらにおとづれのなき
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うゑてみよ華のそだたぬ里もなし心からこそ身はいやしけれ
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相待つときくものゆゑうちつけにおもはぬ訪ひにまさるべらなり
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1081
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いかにして誠の道にかなはむとひとへに思ふねてもさめても
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いかにして誠の道にかなひなむ千とせのうちにひと日なりとも
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1083
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あまつたふ日はかたぶきぬたまほこの家路は遠しふくろは重し
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1084
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○ |
鉢の子をわが忘るれどとる人はなし取る人はなしその鉢の子を
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1085
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鉢の子をわが忘るれど人とらずとる人はなしあはれ鉢の子
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遠方ゆしきりに貝の音すなり今宵の雨に堰崩(せきく)えなむか
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さよ中にほら吹く音のきこゆるはをち方里に火(ほ)やのぼるらむ
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もとどりにつつめる玉のひさにあるを今やおくらむその時にかも
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いそのかみ古のふる道しかすがにみ草ふみわけ行く人なしに
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1090
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ますらをの踏みけむ世世のふる道は荒れにけるかも行く人なしに
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いにしへの人のふみけむ古みちは荒れにけるかも行く人なしに
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1092
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むらぎもの心をやらむ方ぞなきあふさきるさに思ひまどひて
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うつりゆく世にし住まへばうつそみの人の言の葉うれしくもなし
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1094
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聞かずしてあらましものを何しかもわれに告げつる君がよすがを
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あま人のつたふ御衣かひさかたの雲路を通ふ心地こそすれ
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越路なる三島の沼に棲む鳥も羽がひ交はして寝るてふものを
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ゆふされば汀にすめる鴨すらも葉ねがひかはしてぬるてふものを
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かくありとかねてしりせばむすべもありなましものをかねて知りせば
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かくばかり恋しき人の世の中に二人ともあらじとくにも死なむ
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横崎のすたへをろがみいそのかみ古りにしことを偲びつるかも
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何をもて答へてよけむたまきはる命にむかふこれのたまもの
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1102
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あたらねばはづるともなき梓弓空を目あてにはなつもの故
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1103
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いざさらばあはれくらべむ越路なる乙若の春と有明の秋
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1104
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立田山もみぢの秋にあらねどもよそにすぐれてあはれなりけり
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1105
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白雲に路はかくれて見えずともおもひのみこそしるべなりけれ
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1106
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うなばらをふりさけ見つつ背子待つと石となりしは吾身なりけり
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ことさらにわきて賜はる山わさびいつか忘れむ君がこころを
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心には千重に思へどもいとまなみいまだみ寺にまうでざりけり
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えぞが島へ君わたりぬと人づてにきくはまことか蝦夷が島べに
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良寛僧が今朝のあさはなもてにぐるおんすがた後の世まで残らむ
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1111
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良寛が花もて逃ぐるお姿はいつの世までも残りけるかな
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極楽の蓮の花の花びらをわれに供養す君が神通
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極楽の蓮のうてなを手にとりてわれにおくるは君が神通
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いざさらばはちすの上にうちのらむよしや蛙と人は見るとも
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水くきの筆を持たぬ身ぞつらき昨日は寺へ今日は医者殿
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筆もたぬ身はあはれなり杖つきて今朝もみ寺の門たたきけり
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人はみな碁をあげたりといふなれどわれは思案をせぬとこそすれ
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粥二合業三合をまぜくはせ五合庵にぞ君は住むなり
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自今以後納所は君にまかすべし二合三合の分けのよろしき
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1120
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君とわれ僅かの米ですんだらば両くはん坊と人はいふらむ
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いざさらばわれもこれより乞食せむ借宅庵に君は御座あれ
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つくづくと借宅庵の秋の雨うくせのことも思ひ出づらめ
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1123
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大めしを食うて眠りし報いにやいわしの身とぞなりにけるかな
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さけさけと花にあるじをまかせられけふも酒酒あすも酒酒
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1125
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虫の音も今宵かぼちやとなりにけり薯の鰻となるもことわり
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雀ごが人の軒ばにすみなれてさへづる声のそのかしましさ
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○ |
雁鴨はわれを見捨てて去りにけり豆腐に羽根のなきぞうれしき
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見ればをしおよべば高しはこ柿をたごめてたもれ丈高の殿
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一度さへ痩せる殿を山蜘蛛が糸ひきかけて天へ舞ひあがる
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大空の顔のごとある君なれば来るとはすれど目には見ずけり
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一度さへこころにかかるとちうの町双六碁盤からりころり
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われだにもまだ食ひたらぬ白粥のそこにも見ゆる影法師かな
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○ |
蚤虱ねになく秋の虫ならばわがふところは武蔵野の原
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おほ沼をななめになして帯解いて虱をとりしことを忘れじ
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きぬぎぬの東しらみにかくはしはわがふる布の虱なりけり
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ことわりや仏の種を茄子にかへばその色さへも瑠璃にてあらば
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○ |
天竺の涅槃の像と良寛と枕ならべに相寝たるかも
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山伏しの峰わけ衣何と染めむゆかたすそゆき袖はくれなゐ
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弥彦山おろちが池の根藤こそ越後で生ひて佐渡で花咲く
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今日の日の黄金にまさる朝日様立つ雲はわけて照らしやる
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朝霧に乗り出す駒はこまも駒あしげも駒に手綱ゆらゆら
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夕立にふりこめられしくされ儒者ひたる君子と誰かいふらむ
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大方の世をむつまじくわたりなば十に一つも不足なからむ
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小正月いはふ小松の七五三丑につけこむ十分の福
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うちはとてあまり丸きは見よからず扇のかどを少し加へて
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