開きたる詩集の中に不思議なる街並ありて暫く歩けり
黄金の光を放ち霊柩車は夕暮の橋渡りてゆけり
久し振りに百人一首詠みたれば思はぬ歌に感動したり
公園の角を曲がれば小径ありて秋風ひとつ我を待ちをり
秋風に日本生まれのライオンの鬣微かに靡いてをりぬ
それぞれの杭にそれぞれ赤蜻蛉の止まりてをりぬ飛べばまた次に
良寛の文字はも生きてゐる如く見る度にかたち異なる様なり
ザリガニは目高捕まへ喰ひてをり名もなき池の中の出来事
川の中をお玉杓子はメロディを奏でる如く流れてゆけり
川底を歩ける蟹の背中にて春の光の揺れてをりけり
紅葉の葉裏葉裏に流れゐる水の光の揺れてをりけり
田圃にて数羽の白鳥憩ひをり昔の日本の家族の如く
幼子の手を持ち一緒に手を合わせ祈る親子の姿ありけり
錆つける鉄条網に蝉の殻しつかとひとつ張りついてをり
坂道を二人の兄弟駆けて来つ手に虫網と虫籠持ちて
母象は水を吸ひ上げ子象の背に打ち水のごと吹きかけてをり
回りゐる風車の影のあはあはと土の上にも回りてをりぬ
詩心は夜汽車に乗つて東京に行かんとしたる想ひの如し
開きたる孔雀の羽根に折れ羽根の一つ二つを見えてをりけり
残雪の下を流るる水音の八分の六拍子のごとし
ペン先よりインクの出でて言の葉の繁りて歌の育ちゆくなり
こんこんと涌きゐる水を両手にて光と共に掬ひて飲みぬ
億年を寄せては返すさざ波のそのひとつの波の足にかかれり
一瞬に川に落ちたる虫一つ羽打ちながら流れてゆけり
芳醇なワインの如く旧かなは歌を美味しくして呉れにけり
ヘルメット被りし男ら一斗缶に木材入れて焚火してをり
誰も居ぬ電車の吊り輪のリズムもち同じ方向に揺れてをりけり
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